03/12/2025
【第15回リリー・オンコロジー・オン・キャンバス絵手紙部門 優秀賞のご案内】
絵画・写真・絵手紙で想いを綴る「リリー・オンコロジー・オン・キャンバス」。
第15回絵手紙部門 優秀賞 『この笑顔なくさず生きていこう』(久保谷 喜枝子さん)の作品をご紹介いたします。
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『この笑顔なくさず生きていこう』
六十七歳の夏、肺癌が見つかり手術した。手術翌日のレンドゲン検査で「息を吸って」と言われたが、何度やっても一息も吸えない。癌という突然の現実を受けとめられず、私の心は“ドーン”と砕け落ちてしまった。
退院後も日が暮れてくると襲ってくる死への不安と恐怖で布団に潜り込むだけの毎日。外出もせず人にも会わず、ひたすら死ぬ準備の処分をしなくてはと家にこもっていった。
ある日、娘に「ママは眠っていても眉間にシワを寄せているんだね」と言われ、鏡を見た。深く刻まれた眉間のシワが二本、そして笑顔をなくした無表情の私が映っていた。
突然、こんな私は嫌だと思った。夢中で顔を洗いクリームを塗って、鏡の中の私に向かい“にっこり”と微笑んでみた。なんて優しい笑顔なの。この笑顔をなくして私は何をしていたのだろうと呆然とした。
癌になり、多くの人達から助けと優しさをいただいたお陰で生きてこられた事深く感謝している。いつしかありがとうの言葉が増え、優しく人に寄り添えるようになっていた。
手術後九年が過ぎて受けた検診で肺に影が見つかった。でも私は怯えない、もう一人じゃない。苦しい時は同じ病の経験の人達の助けをもらい、苦しい人には少しでも私の助けを分けて皆で受けとめあえると思うから。
癌になるのは生きている証だもの。
部屋の入口に丸い鏡をかけている。鏡の中の私に笑顔をつくり挨拶する。お元気?と。その笑顔じっと見つめて、今日も元気で過ごせるから大丈夫よと魔法をもらう。まだ笑顔が無理な日もあるので心強い味方だ。一日一日を明るく大切に過ごし、時には涙している人の手をこの笑顔で優しく握ってあげたいから、ずっと、この笑顔なくさず生きていこうと思う。
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「リリー・オンコロジー・オン・キャンバス」のテーマは「がんと生きる、わたしの物語。」
言葉だけでは伝えきれない“想い”をアート作品とエッセイで表現し、分かち合う“場”です。
https://www.lilly.com/jp/locj/
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