一般社団法人信州上田みらい塾

一般社団法人信州上田みらい塾 宮坂昌之(大阪大学免疫学フロンティア研究センター・招へい教授、大阪大学名誉教授)が代表理事です。医学健康情報の発信を行います。

大腸がんに対する新しい治療法開発の試みに関するお話です。ちょっと複雑な話です。DNAとか、遺伝子変異とか、がんのネオ抗原とかについてある程度の知識をお持ちの方々向けに書いています。大腸がんには、最近はやりの免疫チェックポイント療法(免疫細胞...
02/12/2025

大腸がんに対する新しい治療法開発の試みに関するお話です。ちょっと複雑な話です。DNAとか、遺伝子変異とか、がんのネオ抗原とかについてある程度の知識をお持ちの方々向けに書いています。

大腸がんには、最近はやりの免疫チェックポイント療法(免疫細胞のブレーキを外してがんを攻撃させる治療法)が良く効くものと、そうでないものがあります。良く効くものは、最初の図に示すように、マイクロサテライト不安定性の腫瘍、あまり効かないのはマイクロサテライト安定性の腫瘍、ということがわかっています。

マイクロサテライト不安定性のものでは、変異によって出来た異常DNAを修復する機構に欠損があるために、マイクロサテライトと呼ばれる配列の繰り返し部分でミスの蓄積が見られます(このためにマイクロサテライト不安定性という名前が付いています)。この場合には、異常DNAの修復機構が欠けているために遺伝子変異が高い頻度で起こります。その結果できたがん細胞では、(正常組織には無くて)がん細胞だけに存在するいわゆるネオ抗原が多種類作られることになります。すると、がん細胞に対する免疫反応が起こりやすくなり、がんを攻撃するキラーT細胞がうまく作られる傾向があります。この細胞がうまくがん組織の中に入ると、いわゆるホットな腫瘍(免疫細胞を多く含む腫瘍)となり、がん細胞を攻撃して、がん細胞が死滅しやすくなります。この時にさらに免疫細胞のブレーキを外すチェックポイント療法を使うと、がん細胞がさらに効率よく殺されるようになります。つまり、大腸がんの中で免疫チェックポイント療法が一番良く効くのは、このタイプのものです。

一方、免疫チェックポイント療法が効かないのは、いわゆるコールドな腫瘍で、がん組織の中に免疫細胞が非常に少ないタイプのものです。
最近、大腸がんの分類法として国際的コンセンサス分類(CMS分類)が用いられています。それを示したのが2枚目の図です。CMS分類の中でも、CMS1サブタイプが上記のマイクロサテライト不安定でホットな腫瘍を作るタイプのものに相当し、免疫チェックポイント療法が非常に良く効きます。一方、CMS2はコールドな腫瘍ですが、標準的な化学療法や分子標的薬が良く効き、幸い、予後が良いがんです。CMS3, 4はいずれもコールドな腫瘍で、特にCMS4は免疫細胞排除型ともよばれ、がん組織の中に免疫細胞を入れないようにしているように見えるタイプのもので、予後が悪く、免疫チェックポイント療法があまり効きません。

前置きが長くなりましたが、京大消化器内科の研究グループが、マウスの実験モデルを用いて、新しい大腸がんの治療法の開発を試み、CMS4タイプのがんに対する新しい治療法を見つけました。専門誌Nature Communicationsの最新号にその論文が掲載されています(https://www.nature.com/articles/s41467-025-66485-2 )(非常に良く書けた論文で、私としては感心して読みました)。

彼らは、CMS4タイプの大腸がんでは、がん組織のすぐ外側までキラーT細胞が来ているものの組織の中に入れないためにがん細胞が攻撃できないのかもしれないと考えました。そこで、このタイプのがんでは免疫細胞をがん組織の中に入れないようにしている仕組みがあると考え、がん組織に存在する線維芽細胞に注目して調べたところ、トロンボスポンジン-2(THBS2)という分子が沢山発現していることを見つけました。

THBS2は以前から発現が高いと予後が悪いことがわかっている分子で、彼らはこの分子が免疫細胞のがん組織への侵入を妨げていると考えました。そこで、マウスの実験モデルでTHBS2の発現を止めると、免疫チェックポイント療法が途端に良く効くようになり、キラーT細胞ががんの組織内に浸潤して、がん細胞の破壊が始まり、さらに、キラーT細胞を惹きつけるケモカインであるCXCL9/10ががん組織の中で強く発現するようになり、そのためにキラーT細胞がさらにがん組織に入りやすくなり、がんの治療効果が高まるようになりました。

すなわち、大腸がんの組織でTHBS2の働きを止めると、難治性であるはずのコールドな腫瘍がホットな腫瘍に変わり、がん組織への免疫細胞の浸潤が高まり、がんの免疫療法の効果が大いに高まるということがわかったのです。まだマウスの実験モデルの段階ですので、今後はヒトでの応用の可能性が探られることとなります。

出来てしまったがん細胞を免疫の力で排除するというのが、がん免疫療法です。その際にTHBS2という分子の働きをうまく止められると、特定のタイプのがんでは、免疫療法の効果がぐんと高まるのかもしれません。医学は日進月歩の世界です。さらなる研究の発展が期待されます。

アルツハイマー病は、脳で病理学的変化が始まってから明らかな臨床症状が出るまでにしばしば20年以も上かかるのではないか、と言われています。となると、早期診断により早期治療が可能ではないかということになるのですが、脳の生検は容易ではないことから...
02/12/2025

アルツハイマー病は、脳で病理学的変化が始まってから明らかな臨床症状が出るまでにしばしば20年以も上かかるのではないか、と言われています。となると、早期診断により早期治療が可能ではないかということになるのですが、脳の生検は容易ではないことから、血液でアルツハイマー病を早期に診断できるようなマーカーが必要とされています。
この点、p-tau217という分子がアルツハイマー病診断可能な時点よりもかなり前から血液に出現するらしいことが明らかになりつつあり、私のポストでも以前に紹介しています(https://www.facebook.com/masayuki.miyasaka.9/posts/pfbid0dJ9vYarf6Udgy8DChmvWmwNsP1fB2XYU26WYe7eYoXTqivpBLNDxLDXRc4DhEmU2l)。
p-tau217とは、アルツハイマー病の原因物質の一つとされるタウタンパク質の217番目のアミノ酸がリン酸化されたものです。つまり「リン酸化タウ」の一種です。
果たしてp-tau217がまだ認知症状の出ていない高齢者におけるアルツハイマー病の前臨床マーカーとなるのかについて、メタ解析が行われ、その結果が最新号のJAMA Neurologyに発表されました。メタ解析とは、これまでに発表された同じテーマに関する複数の研究結果を統計的に統合してより信頼性の高い結論を導き出すための統計手法です。ここでは過去に発表された18の論文を検討し、7,834人(アミロイド陽性2,533人、アミロイド陰性5,301人)について調べています(https://jamanetwork.com/.../jamaneuro.../fullarticle/2842195)。
その結果、p-tau217は、認知障害のない前臨床段階のアルツハイマー病の診断のために信頼性の高い良い血中マーカーである、ということが明らかになりました。現在、日本では富士レビオという会社が血漿中のp-tau217とβアミロイド1-42を同時に測定するキットを開発して、厚労省に体外診断用医薬品として製造販売承認を申請しているようです。このキットは既に米国食品医薬品局(FDA)の承認を取得済(2025/5月)ですので、おそらく、日本でも近々、このような検査キットが保険資料の一環として使われるようになるでしょう。

新型コロナ感染で入院した人や重症化した人では、ブレインフォグや不安障害などが見られることがあり、これらの人では実際に脳に変性(=構造的な変化)が起きていて、これについては何度か私がFB上で紹介しています。https://www.facebo...
01/12/2025

新型コロナ感染で入院した人や重症化した人では、ブレインフォグや不安障害などが見られることがあり、これらの人では実際に脳に変性(=構造的な変化)が起きていて、これについては何度か私がFB上で紹介しています。
https://www.facebook.com/masayuki.miyasaka.9/posts/pfbid037n4iWSoJW7CXYZwLVjSeLDomeQChXiEVWNhmK34g8Gg8HyhdrGrjdizJpjczjKJxl
https://www.facebook.com/masayuki.miyasaka.9/posts/pfbid02kYW6cxeqHFic2Ct9unP89u8tyAMFRKQmrgHXVGJcPAcWNYVVZJKchT7Qb9BUAu3dl
https://www.facebook.com/masayuki.miyasaka.9/posts/pfbid0rqNhUXm8EPFgAtgvp4JwVwvhHwkntHxNnpAbTWZew8hYVkLu2BfURDJpXtWRMfbbl

でも、どうもこれは入院者や重症者には限らないようで、軽度感染者でも脳に異常が出ているという報告が最近、韓国から出ています。Nature Communicationsオンライン11月26日号に出ている論文です(https://www.nature.com/articles/s41467-025-65597-z )。怖い話です。

この研究では、新型コロナ軽度感染の人269名を、(1)NS-PASC: 有意な後遺症症状が無い人たち、(2)Cog-PASC: 認知障害がある人たち、(3)Other-PACS: 認知障害以外の症状がある人たち、の3群に分け、脳のMRI検査と血液のプロテオミクス解析を行っています。 

その結果、Cog-PASCの(=認知障害がある)人たちでは、脳のMRI解析により、帯状皮質(大脳の内側面、脳梁を囲むように位置する脳の領域;情動、認知、行動などに関わる)や島皮質(脳の外側溝の奥深くに位置;体内の状態(内臓感覚、味覚など)の意識化、感情の認知、共感、自己認識など多様の機能に関与)などの部分が菲薄化(=厚みが薄くなっていました)。また、脈絡叢の拡大が見られていました。さらに、血中プロテオミクス解析により、ニューロンやアストログリア細胞の損傷関連タンパク質が増加していました。

これらのことから、新型コロナの軽度感染者においては認知障害を有する後遺症を有する人が一定程度出現し、その人たちにおいては感染から1年後においても慢性的な神経変性プロセス(=脳の損傷)が起きていると考えられました。

つまり、新型コロナは症状が軽くても脳の損傷が起きて認知障害になることがあるということです。これがしっかりとした論文の形で報告されています。「新型コロナなんて大したことない」と言っている人たちにはそう思っていて貰いましょう。いくら説明しても分かって貰えないのですから。

動物は病気になると群れから離れて過ごすという一種の「社会的ひきこもり」行動(ソーシャル・ディスタンシング)をとります。合目的に考えると、感染症のような病気を周囲に広げないというための行動なのかもしれません。自分が飼っていたイヌやネコなどのペ...
28/11/2025

動物は病気になると群れから離れて過ごすという一種の「社会的ひきこもり」行動(ソーシャル・ディスタンシング)をとります。合目的に考えると、感染症のような病気を周囲に広げないというための行動なのかもしれません。自分が飼っていたイヌやネコなどのペットでも、体調が良くない時はひきこもり行動をしていたなと、思い当たるところがあります。しかし、どのような分子がこのような行動を起こすのか、その分子的機序はわかっていませんでした。

アメリカの研究グループが、感染によって脳で作られるIL-1βという一種の炎症性サイトカインが、脳の縫線核という部分に存在する特定のニューロンに働いて、この行動を引き起こしていると、マウスを使って報告しています(https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(25)01245-0)。

背側縫線核とは脳幹に存在する神経細胞集団のことで、神経伝達物質であるセロトニンを作って周囲に供給し、睡眠と覚醒、情動、認知機能、歩行、呼吸などを調節する重要な役割を担っています。この部位に存在するニューロンにはIL-1βに対する受容体が発現していて、炎症時に作られるIL-1βがこのニューロンに刺激を与えて、社会的引きこもり行動を起こすようです。たとえば、マウスの自然免疫を強く刺激するLPS(リポ多糖)を投与すると、血中や脳内でIL-1βが著しく増加し、引きこもり現象がみられるようになります。脳内ではミクログリアという一種の食細胞がIL-1βを作っています。また、細菌感染でも同様なことが見られます。一方、IL-1受容体の機能的阻害あるいは遺伝子欠損を人工的に起こしてやると、感染時に見られる引きこもり現象が消失します。

つまり、マウスでは、炎症によって炎症性サイトカインIL-1βが末梢組織や脳のミクログリアで作られ、これが背側縫線核に働いて引きこもり現象を起こしているようです。ただし、背側縫線核ニューロンが作るセロトニンがどのぐらいこの現象に関与するかは不明です。

IL-1βはこの他にも過剰に作られると食思不振や発熱を引き起こします。炎症が起きた時には自己保存、周囲保存の方法の一つとして「周囲から離れてひとりでじっとしていなさい」と神様が言っているのかもしれません。

心配されていたことですが、新型コロナウイルスはやはり垂直感染をします。垂直感染とは、から子へ病原体が伝わる感染様式のことです。母子感染とか胎内感染とか呼ばれることもあります。これまで風疹やB型感染ウイルスが胎盤を介して垂直感染をすることが知...
27/11/2025

心配されていたことですが、新型コロナウイルスはやはり垂直感染をします。

垂直感染とは、から子へ病原体が伝わる感染様式のことです。母子感染とか胎内感染とか呼ばれることもあります。これまで風疹やB型感染ウイルスが胎盤を介して垂直感染をすることが知られていたのですが、今回の中国からの論文を見ると、新型コロナウイルスも明らかに胎盤を介して胎児に感染をします。

これは中国・上海からの報告です。新型コロナ陽性で妊娠中期(妊娠4ヵ月目まで)に選択的人工妊娠中絶(本人の意思で事前に予定して行う中絶)を受けた妊婦あるいは胎児異常による中絶を受けた妊婦からの胎児(18個体)において調査が行われました。その結果、新型コロナウイルスは、母親から垂直感染によって胎児に伝わり、ウイルス粒子のみならず、種々のウイルス由来タンパク質が胎児の臓器に広く分布していました。さらに、プロテオーム解析の結果、ウイルス感染した臓器ではDNA損傷や免疫反応が起きていることが示唆されました。

何度も言っていることですが、やはり新型コロナは罹らない方が良い病気です。お母さんが妊娠中にかかると、垂直感染が起きて、胎児にまで影響が及ぶ可能性があります。

Infection with SARS-CoV-2 during pregnancy may result in maternal and fetal complications. Here, the authors analyze 18 fetuses following maternal SARS-CoV-2 infection and identify distribution in fetal organs through vertical transmission.

最新号のScience誌によると、「ペルーで吸血コウモリがH5N1型鳥インフルエンザに感染した可能性があり、さらなる感染拡大が懸念されているーコウモリは海洋哺乳類と陸生哺乳類の架け橋となる可能性があるかもしれない」とのことです。困ったことで...
26/11/2025

最新号のScience誌によると、
「ペルーで吸血コウモリがH5N1型鳥インフルエンザに感染した可能性があり、さらなる感染拡大が懸念されているーコウモリは海洋哺乳類と陸生哺乳類の架け橋となる可能性があるかもしれない」とのことです。
困ったことです。なんとか感染の循環の輪を断ち切らないといけないのですが、実際は徐々に広がりつつあるようです。

最新号のScience誌によると、「ペルーで吸血コウモリがH5N1型鳥インフルエンザに感染した可能性があり、さらなる感染拡大が懸念されている」とのことです。困ったことです。なんとか感染の循環の輪を断ち切らないといけないのですが、実際は徐々に...
26/11/2025

最新号のScience誌によると、
「ペルーで吸血コウモリがH5N1型鳥インフルエンザに感染した可能性があり、さらなる感染拡大が懸念されている」とのことです。困ったことです。なんとか感染の循環の輪を断ち切らないといけないのですが、実際は徐々に広がりつつあるようです。

新型コロナ後遺症が世界的に及ぼす経済的な負担について論じている論文があります。要点を訳すと、次のようです。『新型コロナに感染してから3ヶ月間症状が持続する状態を新型コロナ後遺症と定義すると、世界的な有病率は36%(1~92%)と推定されてい...
26/11/2025

新型コロナ後遺症が世界的に及ぼす経済的な負担について論じている論文があります。
要点を訳すと、次のようです。
『新型コロナに感染してから3ヶ月間症状が持続する状態を新型コロナ後遺症と定義すると、世界的な有病率は36%(1~92%)と推定されていて、世界的な健康および経済にとって重大な課題となっている。マクロ経済的、疾病費用、ミクロ経済的影響を含む経済的影響に関する最新の知見をまとめると、世界全体では年間平均1兆ドル(=約150兆円)、米国では患者1人あたり9,000ドル(=約140万円)の負担と推定されている。米国だけをみても年間の収入損失額は約1,700億約ドル(=約266兆円)と推定されている。新型コロナ後遺症による被害は、感染後最大3年間に渉って持続していて、失業、経済的苦境、労働障害の増加と関連している』
どうですか?新型コロナは大した病気ではないどころか、とんでもない経済的損失を世界的に引き起こしている病気ですよ。「新型コロナはインフルエンザ程度」などと言っている人たちには、正しい知識を持っていただきたいものです。

Long COVID, defined by symptoms persisting three months post-SARS-CoV-2 infection, presents a significant global health and economic challenge, with global prevalence estimated at 36% (ranging from 1–92%). This brief communication consolidates current knowledge on its economic impacts, including m...

新型コロナ感染後によくみられる後遺症症状として持続的な疲労がありますが、これが小児や若年者でどうなのかについてはあまりよく分かっていません。この点についてイギリスの研究グループが調査を行い、その結果をScientific Reportsに発...
26/11/2025

新型コロナ感染後によくみられる後遺症症状として持続的な疲労がありますが、これが小児や若年者でどうなのかについてはあまりよく分かっていません。この点についてイギリスの研究グループが調査を行い、その結果をScientific Reportsに発表しています(https://www.nature.com/articles/s41598-025-24868-x)。

この調査では、登録時に11歳から17歳で、感染後3、6、12、24か月の追跡調査に回答した新型コロナ感染経験者を対象としています。疲労はチャルダー疲労尺度(CFQ、スコア範囲:0~11、4以上は臨床的症例を示す)および単一項目(疲労なし、軽度、重度の疲労)によって評価しました。その結果、被験者943名のうち、581名(61.6%)が追跡期間中に少なくとも1回は強い持続的な疲労感を経験していました。症例経験者(未経験者と比較して)の割合は、女性のほうが男性より多めであり(77.1% vs. 54.4%)、年齢が高い傾向があり(平均年齢15.0歳 vs. 13.9歳)、感染後3ヶ月経っても後遺症症状を有していた人(35.6% vs. 7.2%)で高くなっていました。持続的な疲労感を持つ人の割合は、時間が経っても減らず、むしろ、感染後3ヶ月の35.0%から24ヶ月の40.2%に増加していました。図を見るとわかりますが、訴えた症状を多かった順に示すと、1.休息時間がもっと必要、2.エネルギーが不足、3.眠い、ぼーっとする、4.集中力不足、5.物事を始められない、6.発語の際に適当な言葉が見つからない、7.言い間違いしやすい、8.筋力低下、9.弱くなった、でした。

以上、新型コロナ感染後に見られる持続的な疲労は、イギリスの小児や若年者で多々見られ、感染後2年ぐらい持続するケースが多いことがわかります。ただし、これはアンケートによる回答を集めた研究結果であり、その点は考慮しないといけませんが、それを割り引いて考えても、11-17歳の年齢層では新型コロナの後遺症はかなりの割合で見られ、長く続くケースが多いと言えるでしょう。

イギリスは新型コロナの流行が非常に激しかったところであり、いまだに多くの子どもたちが、持続的な疲労感を含む後遺症症状で悩まされています。一方、日本では「子どもは新型コロナにかかっても大したことがない」などと言う人たちが結構多いのですが、是非、彼らにこのような深刻なデータを見てほしいものです。イギリスのこのような悲しい事例を「他山の石」として、日本では今後もきめの細かい感染対策を立てていくべきであると私は考えています。

今年はインフルエンザの流行が進み、私が普段ワクチン接種をお願いしているところの医師が言っておられましたが、大阪・高槻市ではこどもたちの間の流行がひどく、学級閉鎖が続々と起きているそうです。今年のインフルエンザ不活化ワクチンは、流行株と良く型...
26/11/2025

今年はインフルエンザの流行が進み、私が普段ワクチン接種をお願いしているところの医師が言っておられましたが、大阪・高槻市ではこどもたちの間の流行がひどく、学級閉鎖が続々と起きているそうです。今年のインフルエンザ不活化ワクチンは、流行株と良く型が合っていて効果が期待できそうなのですが、まだあまり多くの人たちが接種を終えていないようです。
ファイザーの研究チームが、mRNA型の新しいインフルエンザワクチンの効果について2つの論文を出しています。一つは臨床第二相試験の結果で、NEJM Evidenceに掲載されたもの(https://evidence.nejm.org/doi/full/10.1056/EVIDoa2500087...)、もう一つは臨床第三相試験の結果で、New England Journal of Medicine(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2416779)に掲載されています。
前者は第二相試験で中間段階のもの、後者のほうが第三相試験の結果なので、後者のほうを紹介しましょう。新しいワクチンのことをmodRNAワクチンと呼んでいます。この第3相試験では、18-64歳までの健康な成人18,476人を、2022~2023年のインフルエンザシーズン中に、米国、南アフリカ、フィリピンで、4価modRNAインフルエンザワクチン(modRNA群)または承認済みの不活化4価インフルエンザワクチン(対照群)のいずれかに無作為に割り付けて(=modRNAワクチン接種群9,225人、対照ワクチン接種群9,251人)、インフルエンザ様疾患を伴うインフルエンザと診断された人の割合の減少率を比較しています(ワクチン接種後14日以上経過した時点)。また、ワクチン接種後7日以内の反応原性、1か月間の有害事象、および6か月間の重篤な有害事象についても評価しています。
その結果、新しいmodRNAワクチンは、既存のワクチンと少なくとも同等かそれ以上の感染予防効果を示しました。両ワクチン群ともに、接種直後に軽度または中等度の副反応が認められ、この傾向はmodRNA群のほうが強めでした(局所反応全体、70.1% vs. 43.1%、全身性イベント全体、65.8% vs. 48.7%)。発熱は、modRNA群で5.6%、対照群で1.7%にみられ、有害事象プロファイルは両群で同様でした。
以上、新しいmRNAインフルエンザワクチンは、既存のインフルエンザワクチンと同等かそれ以上の効果を示し、接種直後の副反応は既存のものよりも強めであるものの、全体の有害事象プロファイルは同様でした。
mRNAワクチンは新しい型に合わせて迅速かつ安価に作ることができることから、いずれはインフルエンザワクチンにおいてもmRNA型のワクチンが主流を占める可能性が高そうです。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2416779

Influenza remains a major health burden despite the use of licensed vaccines. Nucleoside-modified messenger RNA (modRNA) influenza vaccines have shown promising immunogenicity against influenza and...

現在、2025-2026年の新型コロナワクチンとして用いられているJN.1系統LP8.1株対応ワクチンは現在流行中の変異株やその周辺のものに対してどのぐらいの効果があるのでしょうか?この点、ドイツの研究グループが42名の医療従事者(年齢中央...
26/11/2025

現在、2025-2026年の新型コロナワクチンとして用いられているJN.1系統LP8.1株対応ワクチンは現在流行中の変異株やその周辺のものに対してどのぐらいの効果があるのでしょうか?
この点、ドイツの研究グループが42名の医療従事者(年齢中央値57歳、男性18%、新型コロナワクチンを平均6回接種済み、83%が少なくとも1回は新型コロナ罹患歴あり)に対して新しいワクチンを接種し、果たして種々の変異株に対して中和抗体がどのぐらいできたのか、調べました。専門誌Lancet Infectious Diseasesオンライン11月21日号に載った結果です。
その結果、新しいワクチンは調べられたほとんどの変異株に対して高い中和抗体価を作ることができていました。特に、ヨーロッパで流行中のXFG株と日本で流行中のNB1.8.1株に対しては高い中和抗体価を誘導していました。一方、過去に少しだけはやったBA.3.2.2株に対しては中和抗体価が低めでした。
中和抗体価は感染予防と密接に関連したパラメーターなので、このデータから考えると、今年の新型コロナワクチンは一定の感染予防効果を持つものと考えられます。今回の調査では重症化予防に必要なT細胞活性化については調べられていませんが、これまでのすべてのワクチンがT細胞活性化については良い結果をもたらしていることを考えると、重症化予防効果についても良く保たれていると思います。
私はひとに会う機会が多いことから、すでに約2週間前このワクチンの接種を済ませています。

26/11/2025

出産経験、授乳経験のある人では、未出産、未授乳の人たちと比べて乳がんのリスクが低く、特に母乳で子どもを育てた人たちではトリプルネガティブ乳がん(=乳がん細胞の増殖に関わる「エストロゲン受容体」、「プロゲステロン受容体」、「HER2」の3つのタンパク質がいずれも陰性のがん;ホルモン療法やHER2を標的とする分子標的薬が効かず、再発リスクも比較的高く、予後が悪いとされる)のリスクが下がるのですが、どうしてそうなるかについてはよくわかっていませんでした。

Natureの最新号に、オーストラリアの研究グループが「出産、授乳経験のある女性では乳房内に特定のタイプの T細胞が増え、それが30年以上も乳房にとどまり、これとともに乳がんリスクが低くなる」ということを示しています。

この研究によると、出産経験のある女性の乳房組織では、未出産の女性と比較して、上皮内または乳管周囲領域に CD8陽性の組織常在メモリー T (TRM) 細胞という特定のタイプの免疫細胞の数が増加していました。驚いたことに、このTRM細胞は乳房内で 30 年以上も維持され、細胞の位置決めに大事なITGAE、ITGA1、CXCR6 などの特定の遺伝子を発現していました。マウスの実験モデル(乳がん細胞を乳房内に注入してその後の腫瘍増殖度を調べるというモデル)では、妊娠、授乳、退縮の 28 日後では、出産経験のないマウスと比較して、がん細胞の増殖が少なく、一方、この時にCD8陽性T細胞を欠損させるとがん対する保護効果が消えました。ヒトにおいても、出産経験のある女性にトリプルネガティブ乳がんが出来た場合には、未出産の女性と比べて、多くのT細胞ががんの中に浸潤していて、臨床的な予後が良い傾向がありました。

以上、「出産、授乳経験のある女性では乳房内にCD8陽性の組織常在メモリー T (TRM) 細胞という特定のタイプの免疫細胞が増え、それが30年以上も乳房にとどまり、これとともに乳がんリスクが低くなる」とのことです。マウスの実験モデルでは確かにこのようなT細胞が存在すると、がんが増えにくく、がんに対する免疫反応が起きていることが示唆されています。ただし、このTRM細胞がどのようにしてがんのリスクを下げているのかについては不明で、これについては今後の解析が必要です。

Parity and breastfeeding reduce the risk of breast cancer, particularly triple-negative breast cancer (TNBC)1,2, yet the immunological mechanisms underlying this protection remain unclear. Here, we show that parity induces an accumulation of CD8+ T cells, including cells with a tissue-resident memor...

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