九州大学病院 総合診療科

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17/03/2023

~2022年度 九州大学病院総合診療科 学会発表記録~

九州大学病院総合診療科では『リサーチマインドを持った総合診療医の育成』を目標の一つに掲げており、日々の臨床に加えて研究・学会活動も積極的に行っています。年度末ですので、今年度に医局員が行った学会発表をまとめました。

発表内容は症例報告から疫学研究まで様々ですが、患者さん、研究参加者の方々のご協力があってこそなし得たものばかりです。この場を借りて感謝申し上げます。
来年度もどうぞ宜しくお願い致します。

【第119回 内科学会総会・講演会(2022/4/15~4/17@京都)】
池崎裕昭:日本人高齢者における新型コロナウイルスワクチン接種後のIgG抗体価に関する検討(プレナリーセッション)

【第96回 感染症学会総会・学術講演会(2022/4/22~4/23@Web)】
村田昌之:HIV感染者における新型コロナウイルスワクチン接種による抗体誘導性の評価
池崎裕昭:新型コロナウイルスワクチン接種後のIgG抗体価の年代間差に関する検討
池崎裕昭:新型コロナウイルスワクチン接種半年後のIgG抗体価の評価とワクチン接種効果の検討
中野祐樹:急性期一般病院におけるSCCmec type-IV MRSAの臨床的特徴と感染のリスク因子に関する検討
佐々木康作:16SrRNA解析によって同定できたEscherichia coliによる難治性恥骨仙骨骨髄炎の1例

【90th EAS Congress(2022/5/22~5/25@Milan, Italy + Hybrid)】
Ikezaki H:Relationship Between the Cholesterol and Triglyceride Content of Lipoprotein Subclasses and Carotid Intima-Media Thickness: Results from the Kyushu and Okinawa Population Study.

【第58回 肝臓学会総会(2022/6/2~6/3@横浜)】
小川栄一:地域型・多施設共同研究の実施体制について ~KULDS17年の足跡と今後の課題(パネルディスカッション)
小川栄一:慢性腎臓病症例におけるHCV排除後の腎機能・肝発癌・長期予後の実態-多施設共同研究-

【EASL 2022(2022/6/22~6/26@London, UK + Hybrid)】
Ogawa E:Improved treatment response and bone density in patients with chronic hepatitis B switched to tenofovir alafenamide from other nucleotide analogue: 96-week results from a prospective multinational study.

【第54回 動脈硬化学会総会・学術集会(2022/7/23~7/24@久留米)】
池崎裕昭:Atherosclerotic cardiovascular disease risk and small dense low-density lipoprotein cholesterol in men, women, African Americans and non-African Americans.

【第25回 病院総合診療医学会学術集会(2022/8/19~8/20@Web)】
山本賢:扁桃摘出後に成人発症したPFAPA症候群の1例
加野哲平:免疫抑制療法中に遷延性発熱を呈した皮膚筋炎再燃の1例
坂井亮介:自覚症状に乏しい巨細胞性動脈炎の一例
中野友輝:SARS-CoV-2ワクチン接種後に発症したseronegative RAの一例
酒井大地:皮膚潰瘍の生検から診断されたHIV関連T細胞性リンパ腫の1例

【第30回 消化器関連学会週間(JDDW 2022)(2022/10/27~10/30@福岡)】
小川栄一:既存核酸アナログ製剤からテノホビル・アラフェナミドへ変更後の長期的な治療効果と安全性
小川栄一:代謝関連因子およびPNPLA3遺伝子多型を含めたSVR後肝癌発症に関する検討

【第92回 感染症学会西日本地方会学術集会・第70回 化学療法学会西日本支部総会(2022/11/3~11/5@長崎)】
太田梓:ウイルス排除後C型慢性肝炎における新規肝癌発症とPNPLA3遺伝子との関連性
松本佑慈:経過中にARS抗体が陽転化し、長期在宅酸素療法を要したCOVID-19の1例
前原玄昌:皮膚潰瘍の生検から診断されたHIV関連T細胞性リンパ腫の1例

【The Liver Meeting(AASLD)2022(2022/11/4~11/8@Washington DC, USA)】
Ogawa E:Increased treatment response and bone density in patients with chronic hepatitis B switched to tenofovir alafenamide from other nucleos(t)ide analogue: 96-week results from a prospective multinational study.
Ogawa E:Nationwide population-level real-world evidence of long-term mortality, liver and non-liver benefits of DAA therapy in patients with chronic hepatitis treated with direct-acting antivirals.

【AHA Scientific Sessions 2022(2022/11/5~11/7@Chicago, IL, USA)】
Ikezaki H:Association Between Nonalcoholic Fatty Liver Disease Risk Alleles And Atherosclerosis.

【第118回 消化器病学会四国支部例会(2022/11/19~11/20@徳島)】
小川栄一:C型肝炎臨床研究の総括および今後の展望(ランチョンセミナー)

【第120回 消化器病学会九州支部例会(2022/12/2~12/3@熊本)】
小川栄一:B型慢性肝炎に対するテノホビル・アラフェナミド切り替え後の長期的効果と安全性(シンポジウム)

【APASL 2023(2023/2/15~2/19@台湾)】
Ogawa E:Effective Antiviral Therapy in Improving the Long-Term Treatment Outcomes in Chronic Hepatitis B Patients.
Ogawa E:Predictors of advanced liver disease for chronic hepatitis C patients after sustained virological response following DAA treatment.

【第26回 病院総合診療医学会学術総会(2023/2/18~2/19@宇都宮)】
池崎裕昭:動脈硬化性心血管疾患のリスク予測因子としてのsmall dense LDLコレステロールの有用性
松本佑慈:COVID-19罹患後に発症したと考えられた抗ARS抗体症候群の1例

【EPI/Lifestyle 2023(2023/2/28~3/3@Boston, MA, USA)】
Ikezaki H:Variants of Neurocan, a nonalcoholic fatty liver disease risk allele, are associated with plaque development in the carotid artery over 5 years.

【第87回 循環器学会学術集会(2023/3/10~3/12@福岡)】
池崎裕昭:Small Dense Low-Density Lipoprotein Cholesterol - a Strong Atherogenic Lipoprotein(会長企画シンポジウム)

【新型コロナワクチンに関する情報15】色々と準備をしている内に半年近く投稿が滞ってしまい、申し訳ありませんでした。今回は九州大学病院総合診療科と原土井病院が共同で行っている新型コロナワクチン接種後の抗体価(免疫力)に関する観察研究の第15報...
03/01/2023

【新型コロナワクチンに関する情報15】
色々と準備をしている内に半年近く投稿が滞ってしまい、申し訳ありませんでした。

今回は九州大学病院総合診療科と原土井病院が共同で行っている新型コロナワクチン接種後の抗体価(免疫力)に関する観察研究の第15報として、3回目ワクチン接種後6ヶ月目までの抗体価の推移についての報告です。

13報目で60歳以上の職員・外来患者群が3回目接種後に最も抗体価が高くなったことをお伝えしましたが、6ヶ月後も同様の傾向が続いています。やはり接種した後は時間の経過とともに抗体価は低下していきますが、2回目接種6ヶ月後と比較すると3回目接種6ヶ月後の抗体価が4~10倍ほど高くなっており(赤枠内の比較)、いわゆるブースター接種の効果が数値として確認されました。
一方で、オミクロン株など変異株については免疫回避能が高まっていることから、どこまでワクチン接種の効果があるかについては、2価ワクチンも含めて様々な検討がなされていますが、決定的な評価は難しいと思われます。

なお、現在主に使用されている2価ワクチン接種については年度内で終了する方針のようで、来年度は(新しいワクチンであっても)自己負担が必要となる可能性が高いです。接種を迷っていらっしゃる方は早めの接種をご検討下さい。

さて、4回目以降は接種しない方も増えてきたこと、接種間隔がかなりバラバラになってしまったので、研究デザインとして正確性が担保できなくなっていることから、抗体価の評価については3回目接種6ヶ月後で終了としました。ご協力いただいた方々にこの場をお借りして感謝申し上げます。
現在は抗体価以外の指標について解析を進めており、論文投稿など公開の準備が整いましたらまた報告致します。

また陽性者が増えつつありますが・・・久々の対面式医局説明会を開催予定です。ご興味のある方はお気軽にお問い合わせ下さい!
12/07/2022

また陽性者が増えつつありますが・・・久々の対面式医局説明会を開催予定です。
ご興味のある方はお気軽にお問い合わせ下さい!

【新型コロナワクチンに関する情報14】今回は九州大学病院総合診療科と原土井病院が共同で行っている新型コロナワクチン接種後の抗体価(免疫力)に関する観察研究の第14報として、3回目ワクチン接種後2ヶ月目までの抗体価について、60歳以上の方での...
02/07/2022

【新型コロナワクチンに関する情報14】
今回は九州大学病院総合診療科と原土井病院が共同で行っている新型コロナワクチン接種後の抗体価(免疫力)に関する観察研究の第14報として、3回目ワクチン接種後2ヶ月目までの抗体価について、60歳以上の方での交差接種についてのサブ解析を報告します。

前回の報告で60歳以上の方、特に長期入院患者・施設入居者群のIgG抗体価が3回目接種後に急上昇していましたが、その理由としてモデルナ製ワクチンの影響があるのではないか?という疑問に対する答えになります。

病院職員は全員、3回ともファイザー製ワクチンを接種しましたので、モデルナ製ワクチンを接種した方も混じってくる、60歳以上の方を対象にして解析を行いました。

各群がさらに2群に分かれるため、解析対象人数が少なくなっており、この結果から確定的なことは言えませんが、本研究対象者内ではワクチン交差接種によるIgG抗体価の差はありませんでした(図右側の赤枠内)。

交差接種した方が抗体価が高くなるという報告もありましたが、何倍もの差があるわけではなく、2回目接種後のIgG抗体価の減少率を考えると、実臨床的には誤差の範囲と考えて良さそうです。

副反応の頻度・強さで少し差があるようですが、前回の報告でお示ししたとおり、60歳以上の方においては3回目を接種すると若い人と同じくらいの効果が得られる、ということが最も大事な点だと考えられます。

次回は病院職員(3回ともファイザー)の3回目接種半年後の結果をお知らせする予定です。

【新型コロナワクチンに関する情報13】学会等でバタバタと過ごしていたら3ヶ月も過ぎてしまいました。すみません。対象者で早い方にはもう4回目の接種券が届いているようです。今回は九州大学病院総合診療科と原土井病院が共同で行っている新型コロナワク...
18/06/2022

【新型コロナワクチンに関する情報13】
学会等でバタバタと過ごしていたら3ヶ月も過ぎてしまいました。すみません。
対象者で早い方にはもう4回目の接種券が届いているようです。
今回は九州大学病院総合診療科と原土井病院が共同で行っている新型コロナワクチン接種後の抗体価(免疫力)に関する観察研究の第13報として、3回目ワクチン接種後2ヶ月目までの抗体価をお伝えします。

前回は原土井病院職員の3回目接種2ヶ月後の結果まででした。今回は外来患者さん、施設入居者・入院患者さんの3本目接種2ヶ月後までの結果になります。

図をご覧になるとお分かりになると思いますが、ポイントは下記3点です。
・3本目接種後に最も抗体価が高くなった群は、60歳以上の職員・外来患者さんの群でした。
・また、施設入居者・入院患者さんの群も、60歳未満職員群とほぼ同程度まで抗体価が上昇しています。
・3回目接種1ヶ月後から2ヶ月後にかけての抗体価減少率は3群とも同程度です。

3本目接種後も60歳未満群が最も抗体価が高いだろうと予想していましたので、個人的にも衝撃の結果でした。考え得る要因として、いくつか挙げられます。
・2本目との接種間隔
 職員は約8ヶ月、外来患者さんは約7ヶ月で3回目を接種しています。しかし、統計学的に接種間隔を調整しても差は変わりありませんでした。
・ワクチンの種類の違い
 職員は全員3回ともファイザーですが、外来患者さんや施設入居者・入院患者さんは3回目はモデルナという方もいらっしゃいます。交差接種の方が効果が高いという報告も以前ありましたが・・・この結果は次回に報告します。
・ワクチン効果(IgG抗体価)の上限
 人間の身体は本当に驚くほど緻密に制御されています。IgG抗体価は基本的に特定のターゲット(今回であれば新型コロナウイルス)に対して特化した物が作られます。すなわち、身体の中には様々なターゲットに対して個々にIgG抗体価が産生されています。いくらワクチンを追加で接種しても、特定のターゲットに対するIgG抗体価の産生量には上限があるのかもしれません(そうしないとIgG抗体価が無限に増えることになってしまいますので)。
 イスラエルからの報告でも同じように、4回目接種後のIgG抗体価は3回目接種後と同程度までしか再上昇しないという結果も出ていました。

これまでの結果を見た個人的な考えですが、新型コロナウイルスワクチンは、特に60歳以上の方には3回目までが最低限必要な回数だったのかもしれません。
4回目接種に関しては、何となく世界中のニュース等もトーンが下がっているとお気づきの方もいらっしゃると思いますが、焦ってとにかく早く接種しましょうとまでは言えない状況だと考えます。今後はインフルエンザワクチンのように、希望者が接種するようなワクチンになっていくのかなと予想しています。

次回は60歳以上の方における交差接種の比較を報告します。
もうすぐ職員の3回目接種半年後の結果も出ますので、近いうちにこちらもご報告させていただきます。

【新型コロナワクチンに関する情報12】九州大学病院総合診療科と原土井病院が共同で行っている新型コロナワクチン接種後の抗体価(免疫力)に関する観察研究の第12報です。3回目接種によりIgG抗体価が約30倍に増加することは前回お伝えしましたが、...
02/03/2022

【新型コロナワクチンに関する情報12】
九州大学病院総合診療科と原土井病院が共同で行っている新型コロナワクチン接種後の抗体価(免疫力)に関する観察研究の第12報です。

3回目接種によりIgG抗体価が約30倍に増加することは前回お伝えしましたが、皆さんの疑問・心配な点としては今度は抗体価がどれくらいもつのか?という点ではないかと思います。

今回のグラフは、原土井病院職員52名を対象に3回目接種2ヶ月後のIgG抗体価まで測定した結果です。なお、COVID-19への感染がないことは別の抗体を測定することで確認しています。

ポイントは次の2点になります。
・3回目接種2ヶ月後時点のIgG抗体価は、2回目接種1ヶ月後時点と同等程度に保たれている
・2回目接種1ヶ月後→2ヶ月後でIgG抗体価は60%減となったが、3回目接種1ヶ月後→2ヶ月後では35%減と、減少幅が縮小している

この結果からは、3回目接種後のワクチンの効果は半年以上もつのではないか?という期待が膨らみます。
今後は65歳以上の対象者の結果が出始めます。3回目接種後は年齢差が縮まってくるのか、変わらないのか、あるいは広がるのか、結果が出次第、ご報告させていただきます。

【新型コロナワクチンに関する情報11】九州大学病院総合診療科と原土井病院が共同で行っている新型コロナワクチン接種後の抗体価(免疫力)に関する観察研究の第11報です。今回は先行して3回目接種を行った医療スタッフの抗体価の変化です(医療スタッフ...
16/02/2022

【新型コロナワクチンに関する情報11】
九州大学病院総合診療科と原土井病院が共同で行っている新型コロナワクチン接種後の抗体価(免疫力)に関する観察研究の第11報です。

今回は先行して3回目接種を行った医療スタッフの抗体価の変化です(医療スタッフですので3回目も全員ファイザー製ワクチンです)。

<今回の報告内容>
・2回目ワクチン接種後、半年間で抗体価は約10%にまで低下したが、3回目接種後は3回目接種直前と比較して、約30倍に抗体価が増加した。
・2回目接種1ヶ月後と比較すると、3回目接種1ヶ月後の抗体価は約1.7倍になった。

<解釈>
3回目接種後の抗体価は殆どの対象者でかなりの高値となり、接種後早期の感染予防効果はかなりありそうです。

今回の報告内容からは、
1.ワクチン3回目接種により、低下した抗体価は殆どの対象者で十分な量まで増加する。
2.一方で、3回目接種後もそれほど抗体価が上がらない対象者も見られ、3回目接種にも関わらず感染したという例は、このようにワクチンに対する反応が低い人と考えられる。
の2点が考えられます。

前回もお伝えしましたが、抗体価の検査系は従来株を対象としているため、オミクロン株に対する効果を正確には現しません。しかし、基本的には抗体価の多寡と相関するとは報告されています。

3回目接種により殆どの対象者では抗体価が感染防御に十分と思われる数字まで上昇しましたが、一部の対象者であまり上昇しない(2回目接種後と同程度)ことが観察されました。

3回目接種後も感染した人が報道されると、ワクチン無意味論が出てきますが、ワクチンは(薬全般ですが)万人に等しい効果があるわけではありません。一部を取り上げて、さも全く効果がないように思うことは危険な考え方です。

感染した場合に命の危険性が予想されるような高齢者・重篤な基礎疾患がある方などは、やはり3回目接種が望ましいと考えられます。

比較的若く、健康な方はワクチンを無理に接種する必要はないかもしれませんが、標準感染予防策の継続は最低限必要だと思われます。

皆さんご自身ができうる限りの対策を講じて、この大変な時期を乗り越えていきましょう。

年が明けてバタバタしているうちに投稿が1ヶ月空いてしまいました。今回はワクチン接種後抗体価研究の対象者の殆どが接種後半年経過しましたので、半年間のまとめになります。【新型コロナワクチンに関する情報10】九州大学病院総合診療科と原土井病院が共...
06/02/2022

年が明けてバタバタしているうちに投稿が1ヶ月空いてしまいました。今回はワクチン接種後抗体価研究の対象者の殆どが接種後半年経過しましたので、半年間のまとめになります。

【新型コロナワクチンに関する情報10】
九州大学病院総合診療科と原土井病院が共同で行っている新型コロナワクチン接種後の抗体価(免疫力)に関する観察研究の第10報です。

今回は若い医療スタッフから長期入院患者さんまで幅広い年代の約200名の抗体価の半年間の変動をまとめたグラフをお示しします(今回から中央値ではなく幾何平均というものを採用していますので、少し数値が変わっています)。

<今回の報告内容>
・ワクチン接種後の抗体価上昇に関しては明らかな年代差があった(既報)が、その後の抗体価の減衰率に関しては年代差は認めなかった。接種1ヶ月後と比較し、半年後には抗体価が1/10まで減少する。
・若年者グループであっても、接種半年後の抗体価幾何平均値は1000AU/mLを下回っており、感染予防効果はかなり落ちている。

(参考情報:前回記載)
今回のIgG抗体価の測定キット販売元であるAbbott社の資料によると、IgGが4160AU/mlあれば、高力価の中和抗体がある確率が95%(=感染防御効果が高い)、IgGが1000AU/mlだとその確率は60%とのことです。

<解釈>
IgG抗体価の多寡だけでワクチンの効果は測れませんが、今のところ高い方が良いであろうと言われています。ちなみにオミクロン株に対してはどうなのかという疑問点がありますが、正確な評価は難しいものの、既存株に比べてIgG抗体価を数割引きで考えた方が良いという解釈があります(非公式見解のため詳細な数字は控えますが、半分以下までにはならないようです)。

今回の報告内容からは、
1.ワクチン2回目接種後、半年経過すると感染予防効果はかなり落ちる。
2.オミクロン株に対してはさらに感染予防効果が低下していると考えられる。
の2点が言えます。

現在、3回目接種が高齢者の方から開始されています。オミクロン株は重症化が少ないという報告もあり、ワクチン3回目不要論もありますが、高齢者や若い方でも基礎疾患のある方、肥満の方などは新型コロナ感染症そのものではなく、基礎疾患の悪化や全身状態の悪化が見られています。

若く、健康な方には3回目は不要かもしれませんが、一律に3回目不要論をかざすことは非常に危険だと考えます。医療はゼロか1の二元論ではありません。接種した方がメリットを得られる方は是非3回目接種を考えていただきたいと思います。

一方で3回目接種の時期がまだの方も多くいらっしゃいます。しかしオミクロン株であっても、対策の基本はこれまでと変わりません。人と接する場面でのマスクの着用、手洗い、食事と睡眠をしっかりととることを心がけていただきたいと思います。

2021年最後の投稿になります。原土井病院職員を対象としたワクチン接種後半年間のIgG抗体価の変動(49名)と、ワクチン接種半年後の全職員対象のIgG抗体価測定の結果をmedRxivで公開しました。https://www.medrxiv.o...
31/12/2021

2021年最後の投稿になります。

原土井病院職員を対象としたワクチン接種後半年間のIgG抗体価の変動(49名)と、ワクチン接種半年後の全職員対象のIgG抗体価測定の結果をmedRxivで公開しました。
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.12.14.21267783v1

ポイントは次の3点です。
1.IgG抗体価はワクチン接種1ヶ月後に比べると半年後は10%未満に低下する → 感染予防の効果は低下していると考えられる

2.接種半年後の抗体価は20歳代でも1500AU/ml程度、40歳代以上は1000AU/ml未満 → 感染予防の効果は年齢が高いほど低いと考えられる

3.ワクチン接種後4~6ヶ月の間(と考えられる)にブレイクスルー感染が4例発生していたが、4例が所属する病棟の平均IgG抗体価が高いということはなく、(本文に書き忘れていましたが)病棟でアウトブレイクも確認されていない → IgG抗体価が下がっていても周囲に感染を広げることは抑えられるかもしれない

オミクロン株がどの程度、ワクチンで作られた免疫をかいくぐるのかは分かりませんが、ワクチン接種してからそれなりの期間が経てば罹患しやすくなるのは間違いないと思われます。3本目接種に関しては少なくとも医療従事者と高齢者においては積極的に推奨されるかなと考えられます。

2022年がコロナを克服し、元のような生活に戻れる一年になるよう、願っております。

Introduction The administration of a third vaccine is ongoing in many countries, but the evaluation of vaccine-induced immunity is still insufficient. This study evaluated anti-spike IgG levels in 373 health care workers six months after the BNT162b2 vaccination. Methods Dynamics of anti-spike IgG l...

【新型コロナワクチンに関する情報9】九州大学病院総合診療科と原土井病院が共同で行っている新型コロナワクチン接種後の抗体価(免疫力)に関する観察研究の第9報です。前回は若年者と高齢自宅生活者、施設入居者・入院患者の3群のIgG抗体価の中央値を...
06/12/2021

【新型コロナワクチンに関する情報9】
九州大学病院総合診療科と原土井病院が共同で行っている新型コロナワクチン接種後の抗体価(免疫力)に関する観察研究の第9報です。

前回は若年者と高齢自宅生活者、施設入居者・入院患者の3群のIgG抗体価の中央値を比較しました。
今回は個別の抗体価を点で表す散布図というものを使用し、現時点での抗体価の解釈について説明します。
今回のIgG抗体価の測定キット販売元であるAbbott社の資料によると、IgGが4160AU/mlあれば、高力価の中和抗体がある確率が95%(=感染防御効果が高い)、IgGが1000AU/mlだとその確率は60%とのことです。

<今回の報告内容>
・1本目接種後3週間目(2本目接種直前)の時点ではIgG 4160(赤いライン)まで上昇した者はほぼいない
・IgG 1000(青いライン)以上となった者は
 60歳未満職員 31名(70.5%)
 60歳以上職員・外来患者 5名(8.1%)
 施設入居者・入院患者 1名(1.3%)

・2本目接種後1ヶ月目でIgG 4160以上となった者は
 60歳未満職員 41名(93.2%)
 60歳以上職員・外来患者 38名(61.3%)
 施設入居者・入院患者 18名(22.8%)
・IgG 1000以上となった者は
 60歳未満職員 44名(100%)
 60歳以上職員・外来患者 56名(90.3%)
 施設入居者・入院患者 51名(64.6%)

という結果でした。

<解釈>
IgG抗体価の多寡がどこまで感染防御に有効か、どのくらいあれば良いのか、についてはまだ結論が出ていません。しかし、ブレイクスルー感染者は感染より少し前のIgG抗体価が低かったという報告もあり、やはりIgG抗体価が高い方が良さそうではあります。
しかし、すでに報告しているように、IgG抗体価は時間とともに低下していきます。そうすると、ピーク値が高ければIgGがある程度保たれる期間も長いということになります。

今回の報告内容からは、
1.ワクチンは2本目まで接種しないと効果が薄いと考えられる
2.年齢が高いほどワクチンの効果は低いと考えられる
の2点が言えそうです。

現在、医療従事者から3回目の接種が始まっています。接種半年後のIgG抗体価はピーク時の10%未満になっていることが分かっており、感染防御という面からは3回目接種は基本的に必要と考えられます。特に入院患者さん・施設入居者の方は3回目接種を行った方が良さそうです。一方で、重症化予防についてはIgGではなく、別の指標で考える必要がありそうです。

今回で短報の内容のまとめは終わりになります。接種半年後の抗体価などまだお知らせしたい内容はありますので、論文公表後に速やかにこちらでもお知らせ致します。

まだまだ油断は禁物な状況です。感染防御策を引き続き行って頂き、皆様が穏やかに年末年始を過ごせるように願っております。

【新型コロナワクチンに関する情報8】九州大学病院総合診療科と原土井病院が共同で行っている新型コロナワクチン接種後の抗体価(免疫力)に関する観察研究の第8報です。前回は若年者と高齢自宅生活者と施設入居者・入院患者の3群のIgG抗体価陽転(50...
13/11/2021

【新型コロナワクチンに関する情報8】
九州大学病院総合診療科と原土井病院が共同で行っている新型コロナワクチン接種後の抗体価(免疫力)に関する観察研究の第8報です。

前回は若年者と高齢自宅生活者と施設入居者・入院患者の3群のIgG抗体価陽転(50AU/ml以上)化率を比較しました。
今回は具体的な抗体価の中央値をお示しします。

<今回の報告内容>
・1本目接種後3週間目(2本目接種直前)のIgG抗体価中央値は
 60歳未満職員 1537.4
 60歳以上職員・外来患者 167.9
 施設入居者・入院患者 54.1
・2本目接種後1ヶ月目のIgG抗体価中央値は
 60歳未満職員 13000
 60歳以上職員・外来患者 4891.2
 施設入居者・入院患者 2085.9
という結果で、60歳未満職員は他2群に比べて統計学的に有意に高値、60歳以上職員・外来患者も施設入居者・入院患者に比べて統計学的に有意に高値という結果でした。

<解釈>
前回は抗体が付くかどうかの比較でしたが、今回は実際に獲得した抗体の量(≒新型コロナウイルスに対する免疫力)を比較しています。施設入居者・入院患者の2本目接種後の抗体価は若年者の1本目接種時と同じ程度しかなく、高齢者においては感染防御の観点からはワクチンの効果が低い可能性があります。
先だってお示ししていますが、若年者では4ヶ月後には約15%まで抗体価が低下するので、施設入居者・入院患者は接種4ヶ月後には300程度までIgG抗体価が下がることになります。

IgG抗体価の多寡はあまり関係ないという話もありますが、そもそもの反応が鈍いということは、今後、実際に感染した際にも免疫反応が鈍くなるかもしれません。

そろそろ対象者が接種半年後の採血の時期になってきていますので、半年後の比較も今後行っていく予定です。

次回は少し専門的な図になりますが、IgG抗体価の分布図を提示して、比較をしていきます。

【新型コロナワクチンに関する情報7】九州大学病院総合診療科と原土井病院が共同で行っている新型コロナワクチン接種後の抗体価(免疫力)に関する観察研究の第7報です。論文化を待っていたため、一ヶ月間ほど投稿が滞って申し訳ありませんでした。今回から...
05/11/2021

【新型コロナワクチンに関する情報7】
九州大学病院総合診療科と原土井病院が共同で行っている新型コロナワクチン接種後の抗体価(免疫力)に関する観察研究の第7報です。

論文化を待っていたため、一ヶ月間ほど投稿が滞って申し訳ありませんでした。

今回からのシリーズ投稿は、これまで報告してきた病院職員のデータと、60歳以上の外来患者さん、施設入所者・療養病棟入院患者さんとの比較になります。

今回は1本目および2本目ワクチン接種後にIgG抗体価(一般的には防御抗体と呼ばれます)が陽性基準の50AU/ml以上になった割合を提示します。

<今回の報告内容>
これまで報告してきた病院職員は全員、1本目接種時点でIgG抗体が陽転化(50以上)していましたが、60歳以上の外来患者さんでは1本目接種だけでは5人に1人が陽転化しませんでした。2本目接種後は全員陽転化しています。施設入所者・入院患者さんでは、1本目接種だけでは半数しか陽転化せず、2本目接種でも10人に1人が陽転化しないという結果でした。

<解釈>
職員の結果から、年齢の影響は大きいと考えられますが、外来患者と施設入所者・入院患者の2群で、年齢・性別調整という統計学的な手法を用いても、2群間で有意な差を認めました。もちろん60歳未満の職員との差も有意です(年齢調整は行わず)。
これらの結果から、年齢はもちろん大いに影響しますが、健康状態(ADL)もワクチン接種効果に影響を与えることが考えられます。

次回は実際の抗体価についてもお示しします。

住所

馬出3-1/1
Fukuoka-shi, Fukuoka
812-8582

営業時間

月曜日 09:00 - 17:00
火曜日 09:00 - 17:00
水曜日 09:00 - 17:00
木曜日 09:00 - 17:00
金曜日 09:00 - 17:00

電話番号

+81926425909

アラート

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