太田西ノ内病院内科(総合診療、感染症、内分泌)

太田西ノ内病院内科(総合診療、感染症、内分泌) 太田西ノ内病院 内科(総合診療科、感染症)の活動ページです!

当院は、福島県郡山市にある3次医療機関です。非常に多彩な症例が集まる病院です。カバーするエリアは広大であり、コモンな疾患からレアな疾患まで経験することができます。
当科では、市中感染症から院内感染症を勉強でき、多数のプロブレムを抱えた患者さんのマネージメント、症候診断も学びます。1~2次医療を中心に基本的な臨床能力を培っていきます。また、成田雅先生を中心に毎朝教育的なカンファレンスを行っております。
月曜日 症例カンファレンス 
火曜日 抄読会  文献を持ち寄る
水曜日 症例カンファレンス 臨床推論
木曜日 ドーナツカンファレンス 研修医が救急外来などで教育的な症例をプレゼン
金曜日 MKSAP勉強会
まだまだこれからですけど、院内で参加したい方、当科への見学希望者は気軽に気兼ねなく連絡ください

臨床現場での「違和感」高齢男性が自宅で倒れているとのことで搬送されました。病院に行くのが嫌で、知人に処方薬を受け取りにいってもらっていたとのこと。入院中にコアグラーゼ陰性ぶどう球菌による菌血症に引き続き、Candida albicansの真...
18/02/2023

臨床現場での「違和感」

高齢男性が自宅で倒れているとのことで搬送されました。病院に行くのが嫌で、知人に処方薬を受け取りにいってもらっていたとのこと。入院中にコアグラーゼ陰性ぶどう球菌による菌血症に引き続き、Candida albicansの真菌血症を来しました。

この方の「病院嫌い」は、何から生じたのでしょうか? もしかしたら過去の医療体験、あるいは家族のある出来事がそうさせたかもしれません。沖縄には「医者半分、ユタ(霊媒師)半分」という言葉もありますが、そもそも医療への信頼が薄い方かもしれません。その割には内服薬は処方されています。実はそれも内服していなかったかもしれません。

臨床上の「何か変だ」という違和感を感じる場合、その問題の核心が存在し、眼に見える疾患や病態はその周辺にあります。その核心に触れることなく、患者は退院し、時にはそのまま亡くなることもあります。
本人と家族の背景を知るために、病状説明の際に行うことが2つあります。
1) 患者のLife review(一編の映画を観るように患者の人生を振り返る)を行う
2) 家系図を描く。この時家族間の関係や、Key personが誰かを意識しながら行う

病歴聴取を通じて、患者が自分の一部と思える瞬間があります。言い換えると、患者情報と自分の内なる何かが共鳴し、共有出来た瞬間。疾患の全体像と、臨床医としての内なる「臨床像」の一部が重なった場合です。その瞬間、核心に触れた実感が自分の中に蓄積され、次の患者を診るときの力になります。その経験の積み重ねが、ある1つの臨床像をより奥行きのある味わい深いものにしていきます。共鳴と共有は、患者自身と医療者が「同化」することになります。「患者が悪寒戦慄していたら、一緒にShakingしろ」とは私の師匠の言葉ですが、患者と同化するための傾聴法を紹介します。

同化的傾聴法 Assimilate listening “QUALE”*  
Be Quiet  沈黙を利用せよ
Let his emotional issues Uncork 思いを吐き出させろ
Animate our interaction with open-mind 心を開いて会話を活気づけよう
Listen to understand 考えるために(意識的に)聞け
Keep Eye-contact to your patient アイコンタクトを保て 眼でも聞け
*Qualia(クオリア)の単数形 主体的に体験される「感じ」や印象。

研修医の皆さんは、まだ患者さんとの関わりを始めたばかりです。良い臨床経験を積むために、医学的側面のみならず、患者さんそのものの人生から何かを学びましょう。きっと多くの学びがあるはずです。
(医学書院 総合診療 Vol.30 No.10 参照)

核心にふれる所見と、それを隠すもの高血圧、糖尿病の既往のある高齢女性が悪寒戦慄と高熱(40℃)で救急室を受診しました。身体所見にて腹部膨満があり、腹腔内病変が疑われつつも血液培養が陽性(Streptococcus anginosus gro...
24/12/2022

核心にふれる所見と、それを隠すもの

高血圧、糖尿病の既往のある高齢女性が悪寒戦慄と高熱(40℃)で救急室を受診しました。身体所見にて腹部膨満があり、腹腔内病変が疑われつつも血液培養が陽性(Streptococcus anginosus group)となり膿瘍が疑われました。追加の身体所見として行った直腸診にて、直腸に硬い腫瘤が触れ、周囲の浸潤と膿瘍が考えられた症例でした。

高齢者の診察の困難な点は、患者自身が症状や所見を認識出来ないところにあります。糖尿病を合併すれば尚更です。その分注意深い情報収集が必要となります。本人の病歴があてにならないことが多いので、同居の家族らに詳細を確認することが必要となります。身体所見もあてにならず、必然的に画像を含めた検査に頼りがちになりますが、これから上級医になる皆さんにとって、初診医が忘れがちな所見を探しに行きましょう。その代表が直腸診です。「コンサルタントの主な仕事は直腸診をすることである」とはウィリアム・オスラー先生の言葉ですが、後から診察する医師にとっても同様です。私が初期研修を行った病院では、すべての入院患者に直腸診を行うことが必須でした。患者の同意を得ることは必須で、患者への敬意を忘れずに、丹念に行う直腸診は多くの情報を与えてくれます。確認するポイントはGAP SHOTと覚えます(Genitalia, A**s, Prostate、Sphincter tonus, Hemorrhoid, Occult blood, Tumor/tenderness)。なぜ直腸診を行うのか? そこに隠された何かがあるからです。
外来での直腸診のタイミングは何時でしょうか? HIV患者の初診では全ての症例に行うべきでしょう。外来の度に行うのは大変ですので、患者さん自身に肛門を日常触っていただき、自覚する所見があれば行うようにしますが、HIV陽性者では年一回とのことです(Hillman et al, J Low Genit Tract Dis 2019 Table 1 参照)。所見を自覚出来ない高齢者では、便通や排尿の異常があれば積極的に行うべきでしょう。
https://journals.lww.com/jlgtd/fulltext/2019/04000/international_anal_neoplasia_society_guidelines.8.aspx
核心のある所見がある場所を敢えて探しにいくことが肝心です。それが隠されやすい状況を覚えておきましょう。

常に鑑別診断を考えながら診察する Clinical Reasoning Physical Diagnosisの手法について敢えて正解を求めすぎない あらゆる可能性を排除せず尊重する実際に患者さんを診察しているつもりで常に鑑別診断を考える有意...
29/10/2022

常に鑑別診断を考えながら診察する Clinical Reasoning Physical Diagnosisの手法について

敢えて正解を求めすぎない あらゆる可能性を排除せず尊重する
実際に患者さんを診察しているつもりで常に鑑別診断を考える
有意な所見を探しに行く(Hunt)
追加の病歴OK 行ったり来たりも大丈夫
最終(鑑別)診断を挙げ(本命、対抗、穴馬の最低3つ)、可能性(from ”Definitive” to “Less likely”) に言及する 
具体的なプランを立てて指示する

診療録の上では整理されたものであっても、実際の医療現場では行き来戻りつすることもあるでしょう。最初からうまく行かなくても、何度も症例を繰り返し経験することによってより洗練されていくものです。

意識した鑑別診断と、注目すべき所見は、その所見があってもなくても、それをPertinent positive /negative findings として記録し観察を継続しましょう。

次回また貴重な症例に出会えることを楽しみにしております。

大事なものは見えない 「赤心」のすすめある金曜日の夕方5時、右下腹部痛の精査目的に紹介となった高齢女性。既往には右肘動脈塞栓症、50年以上の重喫煙歴あり。身体所見上腹部所見は平坦で軟。画像所見では右腎臓の楔状の低吸収域と周囲脂肪組織の毛羽立...
20/08/2022

大事なものは見えない 「赤心」のすすめ

ある金曜日の夕方5時、右下腹部痛の精査目的に紹介となった高齢女性。既往には右肘動脈塞栓症、50年以上の重喫煙歴あり。身体所見上腹部所見は平坦で軟。画像所見では右腎臓の楔状の低吸収域と周囲脂肪組織の毛羽立ちがあり。慢性心房細動(抗凝固療法なし)による腎梗塞が疑われました。

診断に至る過程には、前回にも提示したSystem 1(直感的思考)、System 2 (分析的思考) System 3 (水平思考 患者に直接訊く) System 4 (同化思考 患者の立場になる)があります。それに加えて、「無心 赤心」という心がけがあります。

一人のきこりが斧で木を伐ろうと、山深く入ったら、”さとり”という珍しい動物が姿を現した。きこりがこれを生け捕りにしようと思うと、”さとり”は直ちにその心を読み取り、
「俺を生け捕りにしょうというのか」という。きこりがびっくりすると、
「俺に心を読まれて、びっくりするとはお粗末な話だ」という。ますます驚いたきこりは、
「小癪な奴。斧で一撃のもとに殺してやろう」と考えた。
すると”さとり”は、「こんどは俺を殺そうというのかな」と、からかうように言った。
「こりゃーかなわん。こんな不気味な動物を相手にしないで、本来の仕事を続けよう」
と、きこりは考えた。すると”さとり”は、「俺をあきらめたのか。かわいそうに!」
といった。

きこりはこの不気味な動物を諦めるために木を伐ることに没頭し、力いっぱい斧を木の根元に打ちおろした。額からは汗が流れ、きこりは全く無心になった。

すると全くの偶然にも、斧の刃が柄から抜けて、”さとり”に直撃した。”さとり”は意識不明の重体となった。
 
お陰で、”きこり”はめでたく”さとり”を生け捕りにすることができた。きこりの心を読み取り、きこりをからかった”さとり”も、
無心の心までは読み取ることが出来なかった。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A6%9A

 

知識があればあるほど、専門医であればあるほど取り憑かれるバイアスがあります。その一方で様々な専門医の情報をIntegrateする立場にあるのが研修医です。立場は専門科ローテーションでも、心がけは総合医であることを忘れないようにしましょう。それで救われる患者さんは数多いはずです。今回の直腸診が良い例ですが、身体所見も誰も診ないところを診るようにしましょう。
大事なことは目に見えないですが、赤心の心がけがあれば見えてくるものがあるかもれません。今回の症例も勉強になりました。次回のドーナツカンファレンスも楽しみにしています。

今回の症例は、予想出来ていなかった診断名でした。家族が感じる患者さんの異常から、深夜2時に救急室を受診しています。深夜の救急受診症例、皆さんはどのように対応するでしょうか。こんな夜中に受診するのであれば、余程深刻なケースか、あるいはそうでな...
25/06/2022

今回の症例は、予想出来ていなかった診断名でした。家族が感じる患者さんの異常から、深夜2時に救急室を受診しています。深夜の救急受診症例、皆さんはどのように対応するでしょうか。こんな夜中に受診するのであれば、余程深刻なケースか、あるいはそうでないかのどちらかで、後者であればそれでラッキーということになります。ただし医療者側に余裕がなければ、前者の可能性を低く見積もってしまうことになりがちです。

深夜の症例の見落としを防ぐための方法、心がけがあります。
1)自分自身の体調がよいこと 精神的に平静を保てていることを確認する
2)アセスメントのつかない症例は時間を味方につける。近い外来に受診させて経過を追う。
3)一緒に当直した指導医のみならず、第三者の目を通す。

正しい診断にたどり着くための幾つかのアプローチがあります。直感的思考と分析的思考(System 1, 2) の他に、患者に直接訊いてみる方法(System 3)、患者自身の立場になる(System 4)があります。本症例の患者さんは意思疎通が困難な方でしたが、身近で見ていたご家族に注目し、何が生じていたのか、どのように感じるのかを話していただくのがよいでしょう。

今回の症例の家族歴には新生児期の髄膜炎がありましたが、髄膜炎の年代別の起因菌を言えるようにしましょう。ついでにListeria monocytogenesのアクセントはどこにあるかわかりますか? 当院作成のグラム染色アトラスで直接音声を確認してみて下さい。
https://apps.apple.com/jp/app/%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0%E6%9F%93%E8%89%B2%E3%82%A2%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%B9/id923956608

このような症例は一番勉強になります。
次回も楽しみにしております。8月20日の予定です。

新年度初めてのドーナツカンファレンスは興味深い症例でした。糖尿病、高血圧、大動脈瘤の既往のある80歳台男性。数日前からの早朝の鈍い胸痛にて、当直引き継ぎ間際に受診となりました。全身状態が安定しているとのことで帰宅となりましたが、後日の精査で...
24/04/2022

新年度初めてのドーナツカンファレンスは興味深い症例でした。糖尿病、高血圧、大動脈瘤の既往のある80歳台男性。数日前からの早朝の鈍い胸痛にて、当直引き継ぎ間際に受診となりました。全身状態が安定しているとのことで帰宅となりましたが、後日の精査で冠動脈病変が明らかになりました。

1)「そうでないと解るまで」
救急室にはハイリスクの患者が何事もないかのようにふらりと受診します。診療録と病歴から、見逃してはいけない疾患の背景とリスクファクターを見出します。本症例は上述の虚血性心疾患の危険因子がありました。心電図変化が目立たなくても、血清トロポニンが陰性であっても、その疾患が否定できない場合は「そうでないと解るまで」その疾患として扱う必要があります。本症例では心電図でII, III, aVfで陰性T波が指摘されていました。

3)見た目のよさが当てにならない場合は?
本症例では見た目の元気さに惑わされたのですが、見た目の良さが当てにならない3つの場合があります。糖尿病は神経障害を伴う場合、疼痛が顕在化せず非典型な症状をとることがあります。精神疾患を抱えた方では、虫垂炎の穿孔があっても平気で食事が出来ていたりします。21トリソミーの方は常に笑顔でいるので騙されることがよくあります。ただし救急室では、一見して持つ最初の印象が悪ければ、そのとおり悪いと考えて間違いありません。 In the ER, assume that nothing is ever as bas as it looks at first.

2)上級医やスタッフへの相談をためらわない
臨床研修の前提は、研修医としての修練の立場が守られることです。疾患が疑われた場合、上級医に相談し責任を共有しましょう。自分なりの診断の評価を行い、上級医に確認してもらいましょう。空振りしてもかまいません。バットは振らなければ当たらないのです。

完全試合を目指さなくてよいです。常に間違いがあるかもしれない、謙虚な心を持って、日々の研修に励んでいきましょう。

Until proven otherwise そうでないと分かるまで畑仕事するくらいに元気であった70歳台のかかりつけの女性。朝自宅で倒れていたという突然発症の意識障害にて救急室受診。バイタルサインでは収縮期血圧の低下(80mmHg)に徐脈...
19/12/2021

Until proven otherwise そうでないと分かるまで

畑仕事するくらいに元気であった70歳台のかかりつけの女性。朝自宅で倒れていたという突然発症の意識障害にて救急室受診。バイタルサインでは収縮期血圧の低下(80mmHg)に徐脈(75/min) 。普段認めない排尿排便失禁あり。身体所見では側臥位(Trepopnea)、頸動脈怒張、四肢末梢の冷感を認めました。心電図では完全右脚ブロックと下肢誘導(II III aVf)の陰性T波あり。検査結果では腎機能障害(Cr 1.15 baseline 0.9)、アニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシス、呼吸性代償を伴うアシデミア、CTでは冠動脈石灰化、心嚢液貯留を認めています。
虚血性心疾患に関連する高度房室ブロック、Adams-Stokes症候群、解離性大動脈瘤、その他の原因の心タンポナーデ、未指摘の糖尿病による神経障害の可能性を考慮しました。心嚢液貯留の原因は何でしょうか。今回の現病歴は比較的急性の発症で、悪性腫瘍や膠原病を示唆する慢性疾患の証左は指摘されていません。最初の直感(System 1)を網羅的に検証する(System 2)作業で鑑別診断を絞り込む作業を無意識に行います。その過程で様々なNoise, Biasが同時に関与します。上級医のコメントや経験は時に正しい方向に、時に誤ることがあります。そうでないとわかるまで(Until otherwise proven)ある疾患は否定できないことがあります。その代表は、ジゴキシン内服中の高齢者≒ジゴキシン中毒、福島県南部の11月の発熱患者≒つつが虫病、今現在(2012年12月19日)ならばCOVID-19≒オミクロン株でしょうか。本症例では心血管性の原因、虚血性心疾患や解離性大動脈瘤でしょう。研修医の皆さんは自分なりのアセスメントを自分で立てて指導医と共有しましょう。必ずそれを診療録に記録しましょう。自分なりのアセスメントの確からしさをGrading (definitive:100%, most likely: 90%, probable:75%, possible:50%, rule out: 25%, less likely:

トラブルシューティングの成果を次に活かすために緊急事態宣言が解除され、飲食に出かける機会がまた増えそうです。外食といえば忘れられないエピソードがあります。米国研修の最後に立ち寄ったシアトルであるベトナム料理店に出かけた時のことです。ふと見や...
03/10/2021

トラブルシューティングの成果を次に活かすために

緊急事態宣言が解除され、飲食に出かける機会がまた増えそうです。外食といえば忘れられないエピソードがあります。米国研修の最後に立ち寄ったシアトルであるベトナム料理店に出かけた時のことです。ふと見やるとあるご婦人が前頸部のあたりを押さえて苦しそうにしています。これはと思い、聞いたことのあるあの方法を行いました。その方の背後から両手を組んで上腹部に当てて頭側に持ち上げました。そばにいた方から「もっと上に」とのアドバイスがありました。無事に肉塊が口から出て事無きを得ました。その後そのご婦人からお礼のメールがあったことも思い出しました。

ある若年女性がレストランで食事後、痰も飲み込めないとの訴えにて救急室を受診しました。食物の塊が食道に詰まったという所謂「ステーキハウス症候群」であることは直に想起出来ました。3つの食道狭窄部のうちの大動脈との交差部に食塊が詰まっているのが画像所見でも確認できました。来院後のSpO2の低下が見られ、気道確保目的に挿管をすることになったのですが、本症例はこの問題だけでは済まなかった3つの問題がありました。

1つ目は気道確保困難でした。発症から1時間30分後の来院、4時間後には手術室にて麻酔科医による迅速導入気管挿管となりました。食道が完全閉塞していたことにより唾液が泡沫化し視野を塞ぎ、声門の確認が困難となりました。2つ目は既往の喘息発作が生じたこと、3つ目は全く予想外であった迅速導入気管挿管中に生じた血圧低下を伴う全身の膨隆疹で、アナフィラキシーとして対応しました。

食道穿孔の可能性が高くないことを見極めてから、気管挿管後一度気管内容物を胃内へおしこみ、ネットにて食物塊を確保し摘出しました。それは5✕2cm大の肉塊でした。

本症例からの学びは、既にHeimlich法の適応ではない食道への食塊閉塞をどのように対処すべきか、またマネジメントの過程で生じた気道確保困難、喘息、アナフィラキシーへの対応を如何に行うかということでしょうか。それぞれ型通りに行うことが求められますが、切迫した現場で何を優先すべきかという判断、問題解決の確実性でしょうか。

挿管困難に至った原因は基礎疾患によるものでしたが、これまで生じていた嚥下困難のエピソードを評価し直し、再発予防のために何が必要なのかを考えて診療録に明記することが求められます。今回のステーキハウス症候群を来しうる基礎疾患に関わるリスク因子から生じた3つの問題を如何に解決できたかということをまとめ、英文で文献報告することはまさに社会的貢献となります。

症例提示のコツとしては、切迫した状況を示唆する全身状態(General appearance)の評価を的確に行えるようになると、指導医を救急室に呼びやすくなります。バイタルサインの表記には呼吸数を忘れないようにしましょう。本症例では30回前後はあったはずです。

ステーキハウスに行くときには、自らのプレートの上の肉塊を小さく切ってよく噛むことのみならず、周りの状況も確認したほうがよいかもしれません。あのご婦人は今もお元気で活躍しておられるようで安心しました。

狙って行うこと、ルーチンで行うこと症例は48歳女性、妊娠中毒症の既往あり、定期受診歴のない高血圧緊急症の症例でした。救急室では血管系の致死的な疾患(解離性大動脈瘤やクモ膜下出血など)を除外し、高血圧のマネジメントとしての降圧を行いながら原因...
10/08/2021

狙って行うこと、ルーチンで行うこと

症例は48歳女性、妊娠中毒症の既往あり、定期受診歴のない高血圧緊急症の症例でした。
救急室では血管系の致死的な疾患(解離性大動脈瘤やクモ膜下出血など)を除外し、高血圧のマネジメントとしての降圧を行いながら原因検索を行うことが求められます。この方は結果的には前掲の血管性病変、二次性高血圧の原因としての原発性アルドステロン症や褐色細胞腫が否定的。末梢血スメアにて破砕赤血球が認められたことから、Microangiopathic hemolytic anemia(MAHA)の評価が加えられました。
MAHAに血小板減少があれば、そうでないと分かるまではTTPとして扱います。
TTPの5徴(Pentad)は、Fever, anemia (MAHA), Thrombocytopenia, Renal pathology, Neurological involvement (CNS abnormalities)で、FAT RNと覚えます。

MAHAの鑑別診断は大きく分けると、Thrombotic microangiopathy (TMA, TTP/HUS含む) 、DIC, 妊娠に関するもの(HELLP syndrome)、悪性腫瘍、悪性高血圧症(Malignant hypertension), Scleroderma, polyangiitis nodosaなど自己免疫性疾患、薬剤性(clopidogrelなど) が挙げられます。

本症例において、もしかしたら役立つ習慣は、高血圧緊急症時に行う眼底診察と、溶血性貧血を疑った場合の末梢血塗抹標本を直接見に行くことでしょう。当然必要であればそれを狙って行うものではありますが、眼底診察はそこに眼底鏡が無ければ診察出来ませんし、末梢血像を直接見て、所見を見出すことを知らなければ習慣にはならないでしょう。Vit B12や葉酸欠乏を疑った場合の過分葉核や、つつが虫病の際の異型リンパ球は是非確認してみてください。症例の度毎に繰り返し観察し、所見を見出すことができれば、いつかそれを狙うことが出来ます。
庄子啓先生が素晴らしい資料を作成して下さいました。次回も貴重な症例に出会えることを楽しみにしております。

COVID-19の診療を介して何を一番感じるか? それは病歴と身体所見の重要性でしょう。加えて血液培養、グラム染色などの臨床感染症の基本も変わりません。むしろそれをしないPracticeを見るにつけ、その重要性を感じます。2011年の震災時...
17/04/2021

COVID-19の診療を介して何を一番感じるか? それは病歴と身体所見の重要性でしょう。加えて血液培養、グラム染色などの臨床感染症の基本も変わりません。むしろそれをしないPracticeを見るにつけ、その重要性を感じます。2011年の震災時にも同様のことを感じました。今日のドーナツカンファレンスは広域スペクトラム抗菌薬を如何にして温存するか」というトピックスでお話しましたが、その根本には感染症診療の原則があります。震災時であれ、COVID-19診療であれ、それは変わりません。相手の身になって考えようというメッセージは、究極的には腸内細菌の身になって考えれば、今使用しているカルバペネム系抗菌薬の適応について本気で考えるでしょう。「敵かと思ったら、それは自分自身」かもしれないのですから。
本日の講義後の質問です。

内服抗菌薬のアドヒアランス 1日1回のレボフロキサシンの有効性は?
⇒アドヒアランスは重要な要素の一つだが、その一方で標的とすべき病原体を外す可能性がある。総合的に考えることが必要。

膵炎での抗菌薬治療は?
⇒急性膵炎の予防的抗菌薬投与は推奨されていない。基本的に膵外の感染症(胆管炎、敗血症その他)に関しては適応がある。
常に起因菌が何かを考慮する必要がある。そのためには、膿瘍形成があれば直接穿刺(既存のカテーテル経由ではなく)による採取を試みる必要があるhttps://acgcdn.gi.org/wp-content/uploads/2018/04/ACG-Acute-Pancreatitis-Guideline-Summary.pdf

FN時の肛門痛は?
⇒肛門周囲膿瘍を鑑別に上げる。発熱時の腹腔内感染症としてのTyphlitis も考慮する。
https://casereports.bmj.com/content/2012/bcr.02.2012.5815
直腸診は基本的には禁忌。

救急室での直腸診の有用性は?
⇒全ては鑑別診断ありき。例えば高齢男性の「尿路感染症」の鑑別には、急性腎盂腎炎、急性前立腺炎、急性精巣上体炎があり、夫々を身体所見から区別し評価することは可能。画像所見に頼る前にまず出来ることがあるはず。
常に画像検査が出来ない僻地などで、身体所見によるアセスメントの評価の重要性は認識される。

今度また皆さんと共有できることをたのしみにしております。
次回は6月5日の予定です。

「如何なるときも鑑別診断ありき」コロナ禍のドーナツカンファレンスは、ドーナツとコーヒーなしです。それでも今回の症例はとても興味深いものでした。80歳台の女性の突然の腰痛、下肢の脱力にて、約30km離れた町から搬送となりました。基礎疾患として...
27/12/2020

「如何なるときも鑑別診断ありき」
コロナ禍のドーナツカンファレンスは、ドーナツとコーヒーなしです。それでも今回の症例はとても興味深いものでした。
80歳台の女性の突然の腰痛、下肢の脱力にて、約30km離れた町から搬送となりました。
基礎疾患としての高血圧、糖尿病の存在と、急性の発症経過からは、Vascular issuesを想起させますが、Degenerative disease, Neoplasm, Infectionと幅広く鑑別診断を考える必要があります。鍵になるのは、詳細な神経学的初見、そして直腸診です。
神経学的所見は、脳神経、協調運動、感覚、徒手筋力テスト、深部腱反射、歩行、意識状態の評価が必要です。本症例は下肢の筋力低下があり歩行困難を呈していましたが、排尿・排便失禁のエピソードは特にありませんでした。そこで直腸診の出番となります。肛門括約筋反射の低下は、Th12-L2, S2-4のレベルの障害で生じえます。MRIでは脊髄の前脊髄動脈の支配領域の梗塞所見が明らかになりました。
今回は参加者の直感で最初から質の高い鑑別診断のリストが出来上がりましたが、臨床状況により結論を急がなければならない場合もあります。感染性心内膜炎からの椎体炎・椎間板炎、硬膜外膿瘍、病原体としての結核、梅毒は考慮してもよいでしょう。
貴重な症例の提示を有難うございました。ドーナツなしでも、丸く収まりましたね。
来年また少しずつ精度を上げていきましょう。

新型コロナウイルスはもはや身の回りの何処で遭遇してもよい状況になっています。今回は日本で人口あたり最も患者が多く発生している地域の事例を学びました。「アエロゾルによる感染」は、これからの空気が乾燥する寒い季節、締め切った部屋においてはウイ...
31/10/2020

新型コロナウイルスはもはや身の回りの何処で遭遇してもよい状況になっています。今回は日本で人口あたり最も患者が多く発生している地域の事例を学びました。「アエロゾルによる感染」は、これからの空気が乾燥する寒い季節、締め切った部屋においてはウイルスを含む飛沫の核が空気中を漂うことで、予想外の感染を来します。健康な若い感染者は無症状のまま軽快する一方で、クラスターの辺縁にいる高齢者、持病を抱えた方々が発症し、ときに重症化します。診断、スクリーニング、サーベイランスのそれぞれの意義を踏まえて、検査を行う必要がありますが、その感度特異度は100%ではありません。あるクラスター内の濃厚接触者はPCRを3回繰り返しましたが結果は陰性で、後日判明した血清検査は陽性でした。医療の最前線にいる研修医の方々は、基本的な感染対策に加えて体調の自己管理をお願いします。明らかに悪い中での勤務は避けましょう。お互いに声を掛け合い、休める環境を作りましょう。戦略的な検査ができる体制を、行政を含めて考え、実行していきましょう。次回は貴重な症例を楽しみにしております。

住所

西ノ内2-5-20
Koriyama-shi, Fukushima
963-8558

アラート

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