14/10/2025
澁澤院長からあなたへ!
今回は「ケナコルトA(トリアムシノロン)注射剤」についてです。
ケナコルトA(一般名:トリアムシノロンアセトニド)は合成副腎皮質ホルモン薬(ステロイド)の一種で、特徴として、強力な抗炎症作用・抗アレルギー作用・免疫抑制作用を持ちます。主な使用用途として整形外科領域では関節や腱の炎症に注射剤として多用することが多く、皮膚科/耳鼻咽喉科/アレルギー領域でも用いられています。
①腱鞘内注射の作用:個人差や炎症状態にも左右されますが、持続時間が長いタイプであり数週間から数ヶ月に及びます。これは結晶性の懸濁液であるため腱鞘内に留まりやすく、これにより作用が長く続きます。腱鞘炎では1回の注射でいったん改善することがほとんどです。ある研究では、ばね指に対して平均315日間持続したという報告もあります。注射後すぐに効果が出るわけではなく、通常は数日から1〜2週間で効果が出始め、約2週間でピークに達するとされています。長期間作用のため逆に3〜4ヶ月程度の間隔を空けないと腱が脆くなって断裂リスクが高まります。この間に再発する腱鞘炎には手術が必要と考えます。
②関節内注射の作用:個人差や疾患の状態にもよりますが、一般的には数週間から数ヶ月間効果が持続するとされています。1回の関節内注射により数週間から数ヶ月間、痛みの軽減が見られることが多く、変形性関節症の疼痛緩和に関しては、プラセボ(偽薬)と比較して最長で4週間程度の短期的な有効性が確認されたという報告もあります。
このように整形外科診療においては根治治療ではないものの、抗炎症効果を期待してケナコルト注射を頻用しておりますが、薬品を製造販売する唯一の米国製薬会社において、数ヶ月前から海外の新製造ラインの適格性評価に関連した調査対応が長期化しており、出荷が限定的となってしまいました。現在の診療にて使用困難な状況となっています。
2025/10/01付の製薬会社からの情報によると暫定的な措置として、旧製造ラインを用いて製造を行い、10 月より段階的に出荷量を増加する手立てを講じるとのことですが、新製造ラインが稼働するまで当面は限定出荷を継続するとのことです。これまで行っていた疼痛軽減のためのケナコルト注射がもう暫くの間は制限されてしまうことになりますので、御理解のほどよろしくお願い申し上げます。