19/12/2025
認知症専門鍼灸師が伝授 予防&改善“8つのツボ”
2025年12月19日 16:00
週刊文春
欧米を中心に世界110カ国以上で医療効果が見直される鍼灸治療。なかでも注目なのが、「三焦鍼法(さんしょうしんぽう)」の認知症治療効果だ。鍼や灸に通わずとも、自宅で簡単に実践できる「8つのツボ」を、認知症専門鍼灸師が伝授する。
●自宅で10分押すだけ
●認知症検査で驚きの結果が続々
「私が中医学に魅了されるようになったのは、認知症だった母の治療がきっかけでした。鍼灸治療を受けた後は別人のように穏やかになり笑顔を見せるように。ツボを刺激することで脳の血行が改善され、認知機能の低下が抑制される。人間に本来備わる力を引き出すのが中医学なのです」
こう語るのは、『認知症専門鍼灸師が教える 脳を整える10分ケア』(徳間書店)の著者である佐川聖子さん。重度の認知症を患った母親の闘病生活と10年にわたり向き合い、現在は認知症専門鍼灸師として患者と向き合う。
佐川さんの母が認知症と診断されたのは、68歳のときだった。
「道に迷ったり、待ち合わせにミスが起きるようになりました。優しく、料理が大好きな管理栄養士でしたが、怒ることが増えて、次第に得意の料理も出来なくなった。翌年には、うつや暴力などの症状も出るようになり、レビー小体型認知症の疑いとの診断を病院で受けたのです」
レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症、血管性認知症と並ぶ3大認知症の1つで、存在しない物や人が見える「幻視」が特徴的な症状だ。
「息子が2人いる私も、両親のケアと子育てに追われ、地獄のような日々を過ごしました。実家では母が父に『助けて~っ、殺される!』と叫んだり、暴力を振るったりする一方、私の自宅では子供達に『僕たちの方をもっと見て!』と泣きつかれる日々。家族がボロボロでした」と振り返る。
西洋医学に限界を感じていた頃に出会ったのが、東洋医学の三焦鍼法だった。治療後の母の様子が別人のように穏やかになるので、「本当に同じ人ですか?」と送迎のタクシー運転手に驚かれるほどだったという。
やがて佐川さんは「自分も母を治療したい」と3年かけて鍼灸師の資格を取得。中医学による認知症治療の第一人者として知られる兵頭明氏に師事した。鍼灸師となった数年後に母は他界したものの、その経験と技術を生かし、鍼灸院を開業したのだ。
そこで今回は、認知症専門鍼灸師である佐川さんが、自宅で簡単に出来る「認知症に効く8つのツボ押し」を伝授する。
◇
「三焦鍼法」について解説する前に、まず東洋医学の考え方を紹介しよう。
基本は、体をつくる3つの要素「気(き)」・「血(けつ)」・「水(すい)」という考え方だ。気は、体を動かす生命エネルギーのことで、血と水を動かし、3要素の中心となる。血は、西洋医学の血液と似ているが、全身に栄養を巡らせる働きがある。水(津液・しんえき)は、リンパ液や汗など血液以外の体液を指し、全身を潤し、体温調節や老廃物の排出を促す働きがある。
「3つの要素のどれかが不足したり、めぐりが悪いと体の不調につながります。気は全身にその出入口であるツボ(経穴)があり、鍼灸で刺激することによって3つの要素の状態を正常に整えるのです」
東洋医学では、内臓全体を「五臓六腑」と呼ぶ。例えば、五臓の1つである「肝(かん)」には西洋医学の肝臓、六腑の1つである「胆(たん)」は胆のうも含まれるが、完全に一致しているわけではない。
「三焦」は六腑の1つとされるが、
「臓器そのものではなく、臓器の間を通って全身を巡る気と水の通路を指します。三焦のめぐりが正常であることが、五臓六腑の健康、そして全身の健康につながるのです」
世界が認める鍼灸治療の効果
三焦鍼法では、三焦に対応するツボを鍼灸(鍼や灸、指圧)によって刺激することで、三焦のめぐりを調整する。すると、全身の血流が改善されて脳の血流も整い、脳をはじめ全身の健康とアンチエイジングにもつながるとされる。
「三焦鍼法は2006年頃に中国の大学教授が開発し、以後日本に広まりました。14年度には文科省の委託事業に採択され、その技術を持つ鍼灸師は全国に270人以上います」
三焦鍼法で認知症が改善したケースを紹介しよう。
例えば、アルツハイマー型認知症の73歳男性の事例(1)だ。認知症診断で用いられるミニメンタルステート検査(MMSE)では、30点中23点以下が認知症疑いとされ、この男性の施術前のスコアは20点だった。同じ話を繰り返したり、忘れ物などの記憶障害も多く、外出も嫌がるようになっていたが、施術から1カ月後には、27点と軽度認知障害のレベルまで改善した。
「MMSEの得点が半年以上横ばいを維持し、下がらないというのは、認知症治療薬を飲んでも中々得られないほどの効果です。また、点数以上に重要なのは、男性に笑顔が増えたり、挨拶をするようになったこと。『認知症における生活の質(QOL)』が改善された事実に驚きます」
続く75歳男性の事例(2)では、当初17点だったスコアが最高28点にまで改善している。認知症専門鍼灸師の治療実績では、こうした例は決して珍しくないのだという。
いまや鍼灸治療は110カ国以上に広がり、世界中でその医学的な効果が認められている。例えば、1996年にWHO(世界保健機関)は鍼灸治療の適応疾患49項目を公表し、08年に361個のツボを認定。オーストラリアでは鍼灸師が国家資格となり、ドイツでは鍼灸治療が一部保険適用されている。
13年のイギリスの研究では、うつ病患者に効果がある可能性が示され、17年には米国内科学会が腰痛治療のガイドラインで鍼灸などを推奨した。
ここからは「認知症に効く10分ツボ押しケア」を紹介しよう。毎日でも週に1度でも構わない。無理のないペースで続けてほしい。
まずツボ押しのコツだ。
「押すのも戻すのも“ゆっくり”が大事。力加減は『気持ちいい』あるいは『痛いた気持ちいい』ぐらい。強い痛みを感じるのはNGです」
ツボ押しに不向きなタイミングもある。
「食後や飲酒後、空腹時、入浴中及び入浴前後のほか、風邪や体調不良、女性の場合は月経中は避けましょう」
ツボ押しに使う指は様々だが、お勧めは次の5つ。
(1)両手の親指を重ねる、(2)両手の人差し指を重ねる、(3)片手で人差し指と中指で押す、(4)(3)の人差し指と中指の上に別の手で同じように人差し指と中指を重ねる、(5)手の平で温める。
「押しやすい押し方でOK。ツボの位置が分かりづらいときには、(5)のように手の平でツボ周辺を温めるだけでも大丈夫です」
免疫力や新陳代謝もUP
認知症に効く究極の8つのツボの詳細は下図の通り。下記では、認知症以外の効果についても解説するので、自分ではもちろん、家族やパートナーにも試してみよう。
(1)「足三里(あしさんり)」��「健脚で知られる松尾芭蕉は、『奥の細道』で『三里に灸すゆるより』と書いています」
胃の働きを助け、消化不良の改善や胃痛・腹痛の緩和、足の疲れ、むくみ、倦怠感、冷えを改善し、免疫機能をアップさせる。
(2)「三陰交(さんいんこう)」
生理痛や月経前症候群などの婦人科系の不調の改善のほか、下痢や便秘など消化器系の不調、更年期症状の冷えやのぼせを改善する。
「下半身全体の血流がよくなり、体を温めてくれます」
(3)「太渓(たいけい)」
歯痛や喉の痛み、咳、息切れ、胸の痛み、耳鳴り、月経不順、前立腺肥大などを改善。下半身の水分代謝を活発にして腎機能を活性化させ、血行改善も。
「若返りのツボとも言われます」
目を見て、優しい気持ちで
(4)「血海(けっかい)」
生理痛や月経不順、冷え性など婦人科系の不調を改善。腰痛や膝痛、足の疲れにも効く。
「血の海という名前の通り、血流の改善に効果的です」
(5)「外関(がいかん)」
頭痛やめまい、顔のむくみ、目の痛みなどを改善する。美肌効果や免疫力アップ、疲労回復やストレス緩和もある。
「自律神経を整えて、リラックスの効果があります」
(6)「膻中(だんちゅう)」
動悸や息切れを取り除くなど心肺機能を調整する。緊張や不安を和らげ、精神の安定や呼吸を整える効果がある。
「気の不足や気の滞りといった気の病に効きます」
(7)「中脘(ちゅうかん)」
胃もたれや便秘、食欲不振を改善し、胃腸の働きを助け、消化機能を改善する。ストレス太りや夏バテ解消の効果もある。
(8)「気海(きかい)」
「全身の気が集まるツボ」と言われ、女性ホルモンのバランスを整え、下腹部の血流を促す。冷え性や生理痛の軽減のほか、消化機能の不調を改善し、老廃物の排出を促して新陳代謝機能をアップさせる。
最後に、ツボ押しのポイントを佐川さんが強調する。
「誰かにツボ押しをしてあげる際には、笑顔で相手の目を見て、思い出話などを語りながら優しい気持ちで行いましょう。すると相手はリラックスし、その感情が脳への心地よい刺激となって伝わることで、認知症の予防や改善効果がさらに高まります」
年末年始の帰省に際し、ぜひ家族で実践しよう。
「週刊文春」2025年12月25日号
有料記事について詳しくは以下をご確認ください。