01/12/2025
群馬県北毛保健生活協同組合 北毛診療所、医師の菅野です。
2025年12月の医療情報、二つ目です。
今回はポリファーマシーの予防について。
1.臨床的な疑問:高齢者に対する病院や急性期治療後のケア(PAC)施設でのデプレスクライビング(減処方)介入は服薬負担を減少させるか?
→紹介文での答え:病院からPAC施設に退院した高齢者を対象として、薬剤師またはナースプラクティショナー(診療看護師)が主導して行う、広範囲にわたる減処方介入は、有害事象を増加させることなく、全体の服薬負担を減少させることにつながる。
追加事項:このPOEMはカナダ老年医学会のChoosing Wisely Canadaの次の勧告と一致している「ケアの切り替わる場面において減処方の機会を検討すること」。
2.僕の意見:外来受診中も「まずは処方する前に患者さんの希望をよく聞き、最低限の種類で開始する」、「追加するときも慎重に(もちろん患者さんの希望も聞きながら)」、「追加するときにその代わりにやめられそうな薬を提示する」といった注意はしていますが、他の主治医から引き継いだ場合は(特に多種類の薬をすでに飲んでいる場合は)難しいです。そういった場合に入院を機会に減処方を期待してしまいますね。日本では薬剤師さんや診療看護師さんが中心になることは難しく、入院受け持ちの医師の力量に左右されますが。このスタディの注目点は、服薬種類が減ったことより(有意差はないものの)有害事象が減少傾向だったことかもしれません(詳細は無料で閲覧できる原著のTable 3参照、ハザード比0.83、95%CI 0.52-1.30)。
3.原文の紹介:Daily POEMSより
Vasilevskis EE, Shah AS, Hollingsworth EK, et al. Deprescribing medications among older adults from end of hospitalization through postacute care. JAMA Intern Med 2023;183(3):223-231.
まとめ
Study Design:非盲険無作為割り付け比較試験(隠蔽化あり)
このスタディでは、入院前に5種類以上の薬を服用しており、PAC施設に退院する50歳以上の入院患者さんが、減処方介入を行う群(減処方群)と通常ケアを行う群(対照群)に無作為に割り付けられた。対象患者さん1353人のうち、911人が参加を辞退し、70人が声をかけられなかったため、各試験群に186人の患者さんが割り付けられた。病院では、すべての患者さんが、正確な薬物リストを得るために、医療記録、薬局での補充履歴、規制薬物モニタリングデータベースの確認と、患者さんあるいはその代理人による面接を含むBest Possible Medication Historyプロセスを受けた。減処方群では、さらに臨床研究者(薬剤師または診療看護師)が実施する4つのステップを追加した: (1) 減処方の対象となる薬剤の検討、(2) 減処方に関する患者/代理人との話し合い、(3) 外来処方医および入院チームとの減処方に関する議論、(4) 転院時のPAC施設との処方薬および減処方勧告に関する検討。退院後は、臨床研究者が週単位でPAC施設に電話をかけて薬を確認し、調整した薬物リストと継続的な減処方勧告を外来処方医に送付した。主要アウトカムは、病院退院時、PAC施設退院時、PAC施設退院後90日目の総投薬数とした。各研究グループ142名ずつの患者さんがintention-to-treat(ITT)解析に含まれた。平均年齢は76歳、62%が女性、84%が白人、病院前投薬数の中央値は16であり、ベースライン時の各群は類似していた。退院時の平均総投薬数は2群で同程度であったが、介入群では対照群に比べPAC施設退院時の投薬数が14%減少し(0.86、95%CI 0.80~0.93)、90日フォローアップ時の投薬数は15%減少していた(0.85、0.78~0.92)。ビタミン剤、サプリメント、下剤、降圧剤が最も頻繁に処方される薬物クラスであった。全体的な有害事象、薬物有害事象、薬物離脱有害事象については、2群間で差はなかった。注意すべき点は、試験への参加を辞退した患者の割合が多かったことから、登録バイアスの可能性があったことである。このような行動は介入群と対照群の両方で見られたが、登録した患者はより減処方に傾いていた(好んでいた)可能性がある。
Vasilevskis EE, Shah AS, Hollingsworth EK, Shotwell MS, Kripalani S, Mixon AS, Simmons SF. Deprescribing Medications Among Older Adults From End of Hospitalization Through Postacute Care: A Shed-MEDS Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2023 Mar 1;183(3):223-231. doi: 10.1001/jamainternmed.2022.6545. PMID: 36745422; PMCID: PMC9989899.
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